2022年2月にウクライナへの侵攻を開始したロシアに対し、日本を含む世界各国が厳しい経済制裁を科した。しかし、この制裁はロシアに打撃を与えるだけでなく、制裁を科した国の側にも影響が及ぶものであった。

 ここでは、池上彰さんの「週刊文春」連載コラムをまとめた『独裁者プーチンはなぜ暴挙に走ったか 徹底解説:ウクライナ戦争の深層』より一部を抜粋。「ロシアをSWIFTから排除する」とは一体どういうことなのか、池上さんの解説を紹介する。(全2回の1回目/後編へ続く

池上彰さん ©文藝春秋

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ロシアを金融封鎖する制裁

 ロシアがウクライナに侵攻したことに対し、日本も欧米各国も「ロシアを国際決済網から排除する」と発表しました。「SWIFT」(スイフトと発音)という耳慣れない言葉も登場しました。要するに何をするのか、解説しましょう。

 日本時間の2月27日、「ロシアをSWIFTから排除することが決まった」というニュースが流れたところ、あるテレビ局で「モスクワ支局のスタッフにどうやって給料を払えばいいんだ」という声が出ました。「ドル紙幣を詰め込んだスーツケースをモスクワまで持って行くしかないのか」などという冗談めかした悲鳴が上がったのです。

 ロシア国内には、さまざまな日本企業が進出し、大勢の日本人が働いていますが、彼らに給料を送金することが難しくなる。SWIFTからの排除は、こんな影響が出るのです。

 そもそもSWIFTとは何か。日本語では「国際銀行間通信協会」といいます。200以上の国と地域の1万1千以上の金融機関が加盟しています。国際的な組織ではありますが、別に公的な機関ではありません。銀行間の国際的な取引をしたいと希望する金融機関が任意に加盟している協同組合です。本部はベルギーのブリュッセルにあります。

 国際的な送金ネットワークですが、SWIFT自体が送金業務を実施しているわけではありません。「送金してくれ」などという指示の情報をやりとりするだけなのです。その程度のことならたいしたことはないと思いますか。事実、過去にはFAXで情報のやりとりをしていたこともありますが、いまやそんなことでは大量の情報をやりとりすることができません。国際送金にはなくてはならない存在なのです。