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陽岱鋼を思い出す…“野球のうますぎるファイターズファン”今川優馬が継承した伝統芸

文春野球コラム ペナントレース2022

2022/05/25
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 文春野球も交流戦入りですか……しかも私の相手はヤクルトとか。これまでの経験上、やりにくさしかないんですよね……。昨年は2連敗。長谷川晶一さんという大御所と、元選手の久古健太郎さんにコテンパンにやられてしまいました。今回はどんな手を使えばいいんだろう……とか、思っているプロ野球選手もいそうですね。ローテーションが回ってくるからにはマウンドに上がらなければなりません。ぜひHITの後押しをお願いいたします。

 開幕から2カ月、ファイターズは借金9の最下位で交流戦を迎えることになった。開幕からずっと、関西で言うところの「べべた」をずっと這いずり回っていても、同じ状況だった昨年ほどの悲壮感はない。打線はここにきて清宮幸太郎、野村佑希、万波中正という3人がクリーンアップに並ぶようになった。開幕からの“公開オーディション”もひと段落したのか、チームの未来を担う選手が、収まるべきところに収まった印象だ。まだまだ確率は低いものの、時に爆発的な力を見せてくれる。特に清宮は安打数の半分以上が長打という「規格外」の成績を残し続けている。この数字の特異性にも触れたいのだが、今回は違うところに目を向けたい。

頭上を越されても走者を進ませない「トリックプレー」が出現

 5月22日、札幌ドームで行われた西武戦をテレビで見ていた。先発の金子千尋は初回から走者を背負う苦しい投球。1死満塁とされ、打席には外崎が立った。左翼へ高々と上がった打球は、正直「行った」と観念するような鋭い当たり。ここで必死に打球を追ったのは左翼手の“執念先輩”こと今川優馬だ。そしてフェンスに到達する前に一度本塁方向へ向き直り、捕球態勢に入ったかのような「フェイク」を入れた。

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今川優馬

 今川の頭上を越えた打球はフェンスを直撃したものの、生還したのは1人だけ。走者一掃になってもおかしくないケースだったが、“ダマシ”のせいで二走は帰塁できる位置から動けなくなった。その分スタートが遅れ、本塁突入できなかったのだ。一瞬の機転が、1点を防いだ。

 キャンプから新庄剛志監督は「1点の攻防」を大切にした指導を続けてきた。点の防ぎ方がここまで浸透したのかという見方もあるだろう。ただそれ以上に感じたのは、チームの“伝統”だ。このプレーへのネット上の反応を見ていると「陽岱鋼を思い出す」というものが圧倒的だった。今川はプロ野球選手である前に、ファンクラブ会員でい続けると公言するほどのファイターズファン。きっと覚えているはずなのだ。このプレーを得意としていた陽岱鋼のことを。

 台湾から福岡第一高へ野球留学し、2005年の高校生ドラフト1位で日本ハムに入団した陽岱鋼は、当初のポジションだった遊撃では芽が出なかった。俊足強肩を生かせるようになったのは、梨田監督時代に外野へコンバートされてから。新たなポジションでは、2012年からの3年連続を含む4度のゴールデン・グラブ賞を獲得するほどの名手として評価された。右翼からのちに中堅を守り、広大な守備範囲を誇った。そしてこの日の今川のようなプレーを、何度か見せてくれた。

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