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「僕たちは『情熱大陸っぽい』ものを嫌っている」プロデューサーとナレーターが語った『情熱大陸』20周年 

長寿番組だからこそ、アイディア優先で挑戦していきたい

2017/12/15
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「どう作ってもいい」番組

 福岡 そういう視点こそありがたいんですよね。その一方で、これだけ長く『情熱大陸』に携わっているのに「こういうのは情熱大陸っぽくないな」という発言は絶対にしないし、むしろ「情熱大陸っぽい」ものを嫌っている。それがすごく印象的でした。

 窪田 ナレーションにもありましたよね。ある回で、作家さんが洒落を利かして「なんだか情熱大陸っぽくない流れになってきたが」という言葉を原稿に入れてきた時に「ウィットに富んでいていいと思うけど、僕はこの言葉を言いたくないなあ」と伝えました。だって、この言葉を入れると「情熱大陸とはこうあるべき」というものができちゃうから。それで、どうでしょうかと伺いを立てたら、他のスタッフからも、そうだよね、どう作ってもいいんだもんねという声があがって、じゃあこの言葉は削ろうという話になりました。

ナレーションの収録風景 ©MBS

 福岡 この番組を20年間、見つめてきた窪田さんから指摘されることで、そうだ、どう作ってもいいんだって確信できますよね。

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 窪田 福岡さんは、僕が何を言うまでもなくいつも新しいことをやってきたじゃないですか(笑)。僕が一番驚いたのは、これまでは番組の本編が終わってからCMの後に15秒の次回予告を流していたのですが、CMの5秒を削って本編の最後に次回の登場者を出したこと。初めて見た時は、なんだこれは! と仰天しましたね。でもそうすることで、来週はこういう人か、ちょっと予告も見てみようと思う人もいるでしょう。いろいろ言う人がいるかもしれないけど、福岡さんは大胆不敵に思いついたことをやってみちゃう。それが面白いですよね。

雪が降っているのを見てアドリブで……

 福岡 『情熱大陸』の顔的な存在である窪田さん、葉加瀬太郎さん、ふたりして同じことを言うじゃないですか。葉加瀬さんは「製作現場は小さな革命を常に起こさなきゃいけない」。窪田さんは「~っぽいというものがあってはならない」と。現場を任された身としては、この言葉を聞いて、なにもやらないで右から左に流していたら存在価値がない。風当たりは強かったけど、新しい取り組みをすることで番組に注目してもらうことはできたかなと。

 窪田 おかげさまで、毎週『情熱大陸』の収録に行くのが楽しみですよ。

現場では直前まで打ち合わせを行ってきた ©MBS

 福岡 ありがとうございます。20年間、ナレーションを読んできた方が、なあなあになることを嫌っているんだから、僕らもそれに応えなきゃいけないと思っているんですよ。それに、窪田さんも冒険するじゃないですか。2012年3月11日に放送した2回目の「石巻日日新聞」の回は、本当にシビれました。この時も前回と同様に現地から生中継を入れたんですが、番組の冒頭、生放送部分のナレーション原稿はもともと「3月11日、午後11時何分、気温〇度」だったんです。でも大阪のスタジオにいた窪田さんは、現地で雪が降っているのを見て、アドリブで「3月11日、午後11時何分、気温零度、雪」と入れた。

 窪田 あれは、ナレーター冥利に尽きる瞬間でしたね。テストをしていた時に、本番は雪降るかもしれないねという声が聞こえていたので、せっかくの生中継なんだから雪が降ったらそれを伝えたいよなと思っていたんです。この生中継の後にすぐVTRが流れるから、その前に終わらせればいいんだって。

 福岡 僕は「雪」の一言を聞いた時に、これこそ、何が起こるかわからないドキュメンタリーの生ナレーションだなと思いました。「雪」があるか、ないかでは印象が全然違う。

 窪田 「気温零度」で終わるのもいいけど、「気温零度、雪」という言葉のリズムの心地よさは格別ですよね。これはしゃべり手じゃないとわからない感覚かもしれない。まあ、やっぱり生中継はイヤですけど(笑)。