野外で生のナレーションなんて前代未聞
福岡 生中継は、福田彩乃さんの回(2013年1月27日放送)とか、川田十夢さんの回(2013年9月29日放送)とか、何度かやってますよね。もう慣れました?
窪田 いやいや、なんでこんなに怯えるんだろうというぐらい慣れません。ドキュメンタリーなんだからすっと収めなきゃいけないとか、慌てて読んじゃいけないとか、ここから生中継だと気付かれないような読み方をしたいとか、自分なりの想いがあるんですよ。
福岡 そうですか。12月17日は番組の20年記念で、23時25分からの1時間スペシャルなんです。神戸メリケンパークに「世界一のクリスマスツリー」を立てることを目指すプラントハンターの西畠清順さんに密着しているのですが、番組のオープニングとエンディングには葉加瀬太郎さんの生演奏もあります。僕はこの回で『情熱大陸』から卒業するので、ここで窪田さんにもぜひ、もうひとチャレンジしていただきたいと思っていまして。
窪田 え?
福岡 12月17日も生中継があるとはお伝えしていましたよね。これまでの生放送では、窪田さんには本社のスタジオで中継の映像を見ながらナレーションを入れてもらっていましたが、今回は現場でナレーションをつけてもらおうと思っているんです。
窪田 え? 屋外で?
福岡 この前、神戸に下見に行った時に思いついちゃったんですよ。演奏家の葉加瀬さん、ナレーターの窪田さんが現場で一堂に会したら面白いなって。
窪田 いや、それ、ものすごく注文ありますよ。まずカフ(音声を調整する機械)を用意してほしいとか。風が吹いたらどうするの? 夜中でしょ、寒いからモコモコに着て喋らなきゃいけないし。
福岡 ちょうど打ち合わせができてよかったです(笑)。
窪田 ……テストできるの?
福岡 テストはできないと思います。
窪田 (数秒の絶句)。ドキュメンタリーのナレーションを生で、屋外でやるっていうのは前代未聞じゃない?
チームに面白い無茶ぶりをすると
福岡 下見した時に、技術チームに「窪田さんは本社でブースに入ってやられるんですよね」と聞かれて、ん? と思ったんです。音声的にはブースにいたほうが絶対に良いということはわかるんですけど、現場にいたほうが面白いものになると思うんなら、面白いものを優先させていかないともったいないですよね。それこそ、セオリーが破れない。
窪田 ああ、頭が痛くなってきた。
福岡 実現するのは簡単ではないけど面白いアイデアが浮かんだ時は、諦めずにどういう形にしたらできるかを考えるようにしています。技術の方々も、最初は「は? なに言ってんの?」という雰囲気でした。でも、『情熱大陸』で一緒に生放送をやってきたチームだったから、面白そうな無茶ぶりをするとだんだん意気に感じて、いろいろ提案してくれるようになる。そうなったら楽しい。
窪田 最後まで、福岡さんらしいですよね。その気持ちに応えなきゃならないね。
福岡 僕が考えているのは、エンディングで葉加瀬さんが『エトピリカ』を弾き終わった後、余韻が欲しいので25秒ぐらい残そうと思っているんです。そこがひょっとしたら、窪田さんのアドリブになるかもしれない。
窪田 僕がうまくアドリブできなかったら、放送事故じゃないですか(笑)。
福岡 窪田さんだから心配していません。最後は僕がキューを出しますから!
福岡元啓(ふくおか・もとひろ)
1974年、東京都生まれ。早稲田大学法学部卒業後、1998年に毎日放送に入社。ラジオ局ディレクターとして『MBSヤングタウン』制作を担当した後、報道局を経て2006年に東京支社へ転勤。2010年10月より『情熱大陸』5代目プロデューサーに就任し、これまでにギャラクシー月間賞を2度、ドイツ・ワールドメディアフェスティバルでは金賞と銀賞、ニューヨークフェスティバルでは2年連続で入賞している。
窪田等(くぼた・ひとし)
1951年、山梨県生まれ。ナレーター(シグマ・セブン所属)。高校卒業後、大手情報通信企業の技術職を経て、ナレーターへ転身。以降、テレビ、ラジオなどの各媒体でドキュメンタリー、情報バラエティ、CMなどあらゆるジャンルのナレーションをこなす。明確でわかりやすい口調、過剰に主張しすぎない語り口、抜群の安定感などに定評がある。現在日本で最も仕事の依頼が多いと言われているナレーター。『情熱大陸』では1998年4月の初回からナレーションを担当。