作家・伊集院静氏が週刊文春で連載している“辛口”人生相談「悩むが花」。その名回答の数々は、ジャンル別にまとめられて『大人への手順』(文藝春秋)として書籍化された。

 ここでは同書から一部を抜粋し、伊集院氏の人生を刺激するような回答を紹介。28歳の女性会社員、35歳の男性会社員、73歳の女性が抱える家族の悩みに伊集院氏が贈った言葉とは——。(全4回の3回目/4回目に続く

伊集院静氏 ©文藝春秋

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実の父に「結婚式に参加してほしい」という28歳女性の願い

 今年の冬に結婚式を挙げることになりました。私が幼い頃に両親は離婚し、私は母に育てられました。母は、私が中学生の時に新しい父と再婚しました。そのため、今度の結婚式には母と新しい父が出席します。私は実の父にも結婚式に出席してもらい、私の花嫁姿を見て欲しいのですが、実の父は「新しいお父さんにもお母さんにも悪いから、それはできない」と言って、断わられました。実の父に感謝を伝えるいい方法はないでしょうか。(28歳・女・会社員)

 今年、28歳のお嬢さん。この冬、結婚して、式も挙げることになりましたか。

 それはお目出度う。良かったネ。

 さてお嬢さんの悩みですが、今の世間では、よくあることらしいですよ。

 私は、実のお父さんにも結婚式に出て欲しいと思うあなたの気持ちは大切なことだと思いますよ。そう考えるだけで、あなたは大切なものを失わないで生きて来たと言うことです。立派です。パチパチ。

 お母さんと、新しいお父さん、そして実のお父さんの3人でひとつの場所に立つ姿は、招待されたお客さんも、3人の当事者の人たちも居住まいがしっくり行かないかもしれませんが、結婚式って何だろう? とこれを機会によく考えてみることだ。あなたと、あなたが選んだ伴侶、そして伴侶の方の家族やあなたの家族が、どんな人柄なのだろうか、と皆にわかってもらい、その後も皆が出逢った時、「やあ」とか「もしかして赤チャンできたの? おめでとう。もし良かったら、前のお産で使ったベビーカーやらいろいろあるから家に訪ねて来てよ」とか、あなたが結婚することで新しい人々との輪をこしらえることができる、大切な宴なんだよ。結婚は当人たちだけがするんじゃなくて、旦那さんのご両親と話をしたり、家族に挨拶したりして、安心、安堵をもらったりできる、とてもイイ機会な訳だナ。

 さて実のお父さんのことですが、お父さんは宴の中心に居なくとも、遠くからでも、実の娘の幸福を見守りたいのが、正直な気持ちでしょう。“見守って欲しい”ということでは、あなたも同じでしょう。