作家・伊集院静氏が週刊文春で連載している“辛口”人生相談「悩むが花」。その名回答の数々は、ジャンル別にまとめられて『大人への手順』(文藝春秋)として書籍化された。
ここでは同書から一部を抜粋し、伊集院氏の人生を刺激するような回答を紹介。23歳の女性販売員、21歳の就活生、63歳の男性会社員が抱える仕事や就活の悩みに対して、伊集院氏はどう答えるのか——。(全4回の4回目/3回目から続く)
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働きはじめると、仕事というものは想像以上に厳しいもの
社会人になり1年経ちます。あこがれの職種に就けて喜んでいましたが、今では職場での人間関係や残業に心身ともにぐったりです。退勤後においしい物でも食べようか、帰り道に母の好きなお菓子をお土産に買っていこう、などと些細な幸せを励みに出勤しています。それが無ければ仕事を続けられる自信がありません。オフタイムの解放感を励みに出勤するのは悪いことではありませんか。プライベートを切り捨て仕事に熱中することこそが働くことの極意なのでしょうか。(23歳・女・衣料品販売)
23歳の販売員さん。実は、あなたが今お持ちの悩みは、新しく社会人になった人の半分以上の人たちが同じ経験をしているんです。
何が同じか?
実は、外から見ていたものと違って、実際に職場に立ち、働きはじめると、仕事というものは想像以上に厳しいものなのです。
最初の内は、心身ともに疲れ果てるのが当たり前なのです。その疲れ方、無理かもしれない、ダメかもしれない……と先輩たちは同じ思いをして来たんです。それが今は平気で働いているように見えるのは、半分以上が、仕事に慣れて来てからのことなんです。
それでも苦しい時、辛い時は何かひとつでも、あなたの働きで喜ぶ人がいると思えることは悪いことではありません。お母さんへの買い物、2人してのケーキタイムでもいいのです。
そしてプライベートを切り捨てても仕事に熱中することには限度があります。そんなことをしてはダメです。働くことに極意なんぞありません。誠実に、丁寧にむかうだけです。