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45年連れ添った夫がガンで他界…最愛の人を失った73歳女性に作家・伊集院静が伝える“残された人の生き方”「必ず笑える日が来ます」

『大人への手順』より #3

2022/05/14

source : 文藝出版局

genre : ライフ, 人生相談, ライフスタイル, 読書

note

 だから当日、少し時間をずらしてもイイからお父さんに来てもらって、別の場所で(廊下だって控え室だってイイんだよ)友達に2人の写真を撮ってもらえばどうだろう。本当は写真なんかより花嫁姿(ウェディングドレスでも)のあなたの隣りに一瞬でも立ちたいのが、お父さんの正直な気持ちだから。実のお父さんにそれを告げてあげたらどうだろう。

 当日、お父さんに少しの間でいいから気を遣ってあげないとね。

 他人でも、誰にでも、気を遣うことは、その人の人間としての価値だから。

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 では成功を祈ります。オメデトウ。

©文藝春秋

20年以上音信不通だった姉との関係はどうすれば?

 高校を卒業後、家を飛び出して20年以上、音信不通だった姉から急に連絡がありました。私も両親も生きててよかった、これからは仲良くしようと遠くに住む姉とメールで連絡を取りはじめました。しかし数ヶ月後、姉から「もう連絡してこないでほしい」とメールがありました。姉の気持ちを尊重することにしたのですが、血を分けた肉親とこのまま没交渉になってしまうのも寂しい。先生ならどうされますか。(35歳・男・会社員)

 家を飛び出したまま20年も音信不通だったお姉さんから連絡があり、元気になさっていましたか。そりゃ良かった。

 ご両親はさぞ喜ばれたでしょうな。

 それで相談は何ですって?

 聞けば遠くに住んでいたお姉さんと、これまで数ヶ月メールでいろいろやりとりをしてたのが、突然、お姉さんから「もう連絡しないで欲しい」とメールが届きましたか。

 おそらくお姉さんの方にもさまざまな事情があるんでしょうな。

 でもあなたもご両親も一度お姉さんに逢って話したい、顔が見てみたいという気持ちがあるんですか。気持ちはよくわかります。

 しかし考えてみて下さい。お姉さんにはご両親やあなたにこれまで連絡が取れない何か事情があったから、20年という歳月になったんだと思いますよ。

 その、何か、がどういうものか、お姉さん以外はわからないのですから、それについてはそっとしておくべきでしょう。

 私の考えでは、家族、親と子供、兄弟、姉妹というものは、たしかに血は繋がってはいますが、1人の人格で歩き出せば、その関係において他人以上に意志が通い合わない人がいても当たり前だと思っています。それぞれの人の性格もあるでしょうし、育った時代、環境によって家族との関わり方、意志の通い合いは違って当然でしょう。

 私に言わせると、肉親だから、血が繋がっているからという理由で、仲が良く、気持ちが同じということはあり得ないし、それを当然と思う人の方が、相手に対して思いやりがないのではないかと。

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