2021年1月、バイデン大統領就任式で朗誦された一篇の詩。アメリカの分断を癒し、ともに立ち上がろうというメッセージをうたいあげ、全世界に感動を与えたわずか22歳の桂冠詩人こそが、アマンダ・ゴーマンでした。素晴らしいパフォーマンスとインパクト絶大なその姿もあいまって、一夜にして世界の時の人になったゴーマンとはいったいどんな女性なのか?
大統領就任式での彼女の詩を翻訳した『わたしたちの登る丘』から一部を抜粋。翻訳を担った鴻巣友季子氏と芥川賞作家の柴崎友香氏による解説対談をお届けします。(全2回の1回目/後編を読む)
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大統領就任式で読まれたゴーマンの詩
鴻巣 柴崎さんはIWP(International Writing Program/国際創作プログラム)に参加して、その帰国前日が2016年の大統領選の開票日だったんですよね。
柴崎 はい。アイオワからニューヨークに旅行してプログラムが終わるのですが、最終日がたまたま投票日だったんです。結果はまったく予想していなかったのですが、一大イベントだしせっかくなので開票まで見ていこうかなと3日間延泊して。書店でやっていた開票速報イベントに参加したんですけれど、ニューヨークでリベラルな人の多い街なので、予想外の結果に皆さん動揺していました。翌日は雨で寒い日だったのもありますが、街の人たちが戸惑いながら話していた光景をよく覚えています。
鴻巣 そういうショックからの4年間、さらにコロナも襲ってきて。この詩でも、第十スタンザあたりではかなりはっきりと前政権への批評が出ているように思います。
「民主主義の足を引っ張るだけでも国ごと滅ぼしかねない勢力をわたしたちは見てきた」「この企みはあやうく完遂しかけた」というのは、大統領就任式前の連邦議会議事堂襲撃事件を思わせる。この詩は全体に比喩や、聖書の引用や、ミュージカル『ハミルトン』の引用などもちりばめながら書かれていますけれど、ここは結構ストレートなメッセージ性を読み取れるかなと思います。
柴崎 こういう新政権の就任式ではいつも詩が読まれるものなんですか?
鴻巣 そうですね、マヤ・アンジェロウとか、ロバート・フロストとか。国を代表するような国民的詩人が来るんですよね。そこに、まだ大学を卒業したばかりの22歳の詩人が呼ばれた。ジル・バイデンがかねてから才能に注目していて、自らアマンダに依頼したそうですね。
柴崎 バイデン大統領が白人で高齢の男性だから、多様性をアピールするという意味もあったんでしょうか?