サンダースを支持したこの世代の声を反映しようと、2017年には「自分たちの声を政治に反映させるために民主党から次世代のリーダーを議会に送り込む」という趣旨の「ジャスティス・デモクラッツ」という団体が立ち上げられます。
この団体にサポートされた新人候補の一人、アレクサンドリア・オカシオ゠コルテス(AOC)はニューヨーク州から立候補し、民主党下院ナンバー4で議員を10期務めた現職ジョセフ・クローリーを予備選挙で破り、本選挙で共和党候補を破って史上最年少の28歳で下院議員になりました。その戦いぶりは「レボリューション─米国議会に挑んだ女性たち」というドキュメンタリー映画で紹介されています。
AOCはブロンクス出身の父親とプエルトリコ人の母親を持ち、多民族が暮らすブロンクスの労働者階級の家庭で育ちました。ボストン大学在学中に父親を病気で亡くし、卒業後はウェイトレスで生計を立てつつ、サンダースの選挙キャンペーンに加わるなどの活動をしていましたが、弟の推薦を受けて、ジャスティス・デモクラッツのサポートで立候補します。そして見事に下院議員に当選したのです。
AOCは、ポイントを押さえ、簡潔にわかりやすく印象に残る話し方をすることで知られています。自分が選挙民と同じ地域で生まれ育ち、働き、選挙民と同じ経験をしていることを強調し、「だからみなさんの代表にふさわしい」と訴えて共感を勝ち取っていくのです。
一方、彼女と予備選挙を争ったクローリーは地元出身でも、地元で暮らしているわけでもなく、子どもをブロンクスの学校に入れているわけでもありませんでした。
ただ議員は有権者の「代表」であって、大統領のような国の「リーダー」ではありません。これからAOCが政治家として活躍していくうちに、自分を支持している人たちと経験がずれてくることもあるでしょうし、「代表」ではなく「リーダー」として行動することがより強く求められることもあるでしょう。そのとき彼女がどんな戦略を取ってくるのか、個人的にはどこかワクワクしながら注視しています。
ドイツのメルケル元首相がスゴい理由。
「レボリューション」を見ていて私が興味を惹かれたのは、AOCがクローリーとのテレビ討論会に向けて演説の練習をしながら、“I need to take up space” と何度もつぶやくシーンです。「存在感を出さなくちゃ」という意味ですが、文字通り訳せば「場所をとらなくては」ということになります。
これは女性のリーダーシップを考える上で重要です。政治の討論会であれ、会社での会議や地域のイベントであれ、自分は当然その場にいる権利があるという態度で「場所をとる」ことは、多くの女性にとってそれほど自然に身についた振る舞いとは言えないのではないでしょうか。そしてこれは女性がどのような振る舞い方を期待されてきたのか、それがどのくらい深く文化に根付いているのか、ということを示しています。
その点で目をひいたのは、ドイツのアンゲラ・メルケル元首相です。たとえばトランプ元大統領や習近平国家主席と並んでも圧倒するほどの存在感があった彼女はもはや “I need to take up space” と自分に言い聞かせる必要なく、「場所をとる」ことに成功しているように見えました。
自分自身を振り返っても、女性は「場所をとる」経験を積む機会を与えられないことが多いと思います。いつでも一歩下がって、主張し過ぎることなく控えめに遠慮がちであること、言い換えればできるだけ場所をとらずにいることを女性たちに期待する文化が残っている限り、それに対抗して女性のリーダーシップを可能にしていくためには、物理的にも心理的にも社会的にも女性が「場所をとる」ことを意識的に奨励していく必要があるのかもしれません。
AOCのような次世代の女性「リーダー」たちがいちいち「場所をとらなくては」と自分に言い聞かせなくても、必要なだけの「場所をとる」ことが自然にできるような文化を作っていくこと。女性のリーダーシップは、そういうところから考えることもできるのではないかと思います。
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本書は「VOGUEオンライン」で連載している「VOGUEと学ぶフェミニズム」の書籍化です。