海外各国の女性リーダーが注目される一方で、日本では未だに女性総理大臣が誕生していない。それどころか、女性管理職の割合もなかなか増えていないのが現状である。では、日本にも女性リーダーが誕生すれば、万事解決なのであろうか。それとも……。
ここでは、フェミニズム研究者の清水晶子さんによる「VOGUEオンライン」の連載「VOGUEと学ぶフェミニズム」を書籍化した『フェミニズムってなんですか?』から一部を抜粋。現代における女性リーダーの活躍をヒントに、「次世代リーダーシップのあり方」を考える。(全2回の1回目/後編を読む)
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ドイツのメルケル元首相、台湾の蔡英文総統、ニュージーランドのアーダーン首相――。コロナ禍では、感染対策の観点から「女性のリーダーシップ」が世界的に注目された。ではリーダーは女性であれば良いのだろうか? フェミニズム的視点から見た女性リーダーのあり方、時代とともに変容するリーダー像とは。そして、「女性が場所をとる」ことについて。
女性がリーダーだと“良い”のか。
新型コロナウイルス感染症の世界的拡大の初期、感染者数、死亡者数ともかなり低く抑える対策をとることに成功した国のリーダーに女性が多いことが話題になりました。
西欧ではドイツ(アンゲラ・メルケル)、北欧ではフィンランド(サンナ・マリン)、ノルウェー(エルナ・ソルベルグ)、デンマーク(メッテ・フレデリクセン)、アジアでは台湾(蔡ツアイ英イン文ウエン)、オセアニアではニュージーランド(ジャシンダ・アーダーン)。
これらの女性リーダーたちは、国民の理解と協力を求めて迅速に対策をとり、少なくとも初期の段階では感染の拡大を抑えることができていました。
そのことから、女性のリーダーシップについてメディアでポジティブに取り上げられることも多くなっています。とはいえ、フェミニストたちが女性リーダーたちを常に諸手(もろて)を挙げて歓迎してきたかといえば、そうとも言いきれません。
例えば、マーガレット・サッチャーは女性としてはじめてイギリスの首相に就任し、1979年から1990年までイギリスという大国のリーダーとなりました。
けれども、規制緩和や金融システム改革などに強いリーダーシップを発揮した彼女は確かに政治家として有能だったものの、新自由主義と保守主義とに基づいて彼女が推し進めた政策は、福祉をはじめとする弱者への社会保障を切り捨て、社会の格差を拡大することにつながっていくものでもありました。そして多くのフェミニストたちが、それは自分たちの望む社会とはかけ離れたものだ、と感じたのです。
こういったことも前提にした上で、パンデミック下で女性リーダーたちの姿勢に注目が集まった今、あらためて女性のリーダーシップについて考えてみたいと思います。
女性がトップにある国で、感染症の流行が初期段階では抑制に成功したことは、「女性が主として担ってきた子育てや介護などケアの経験が、感染症対策に生かされた」と短絡的に結びつける意見も生み出しました。
この見方は、「女性は本質的にケアに向いている」というフェミニストが従来異議を唱えてきた発想にもつながりかねず、注意が必要ですが、少なくとも「女性をリーダーに擁する政治・社会体制の国は、COVID-19のパンデミックのような危機に直面したときに柔軟な対処ができる国でもある」とは言えるのかもしれません。