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 その日、東京駅から中央線の下り快速電車に2人の中国人が乗り込んだ。そこに酔った警部補が同じ車両に乗り込む。彼の目の前には大声で話している中国人らがいた。当時は冷たい雨が降っており、中国人が持っていた傘が警部補の足にあたり、ズボンに傘のしずくがかかった。

 被害者となった警部補は、こう証言したという。

「電車の中で座っていたら、中国人の傘があたった。大声でしゃべっているから『うるさい』と注意したら、胸倉を掴まれて外に引きずり出されて脅された」

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 御茶ノ水駅のホームに引きずり出されたと証言した警部補は、中国人2人にホームから突き落とされ、電車にひかれた。その間、わずか2分のことだった。

被害者と異なる証言が次々と

 警部補の証言を聞いた捜査員らは、とんでもないやつらだと思い捜査を始める。仲間が襲われたという事件は、警察官にとってもっとも許しがたい事案でもある。

 ところが、中国人らの証言は警部補と食い違った。

「あの人は酒乱みたいに『うるせえ、お前らが悪いんだ』と怒鳴った。傘があたったのか、『傘が邪魔だ』とはらわれて、しゃべっていたら『うるせえぞ、駅で降りろ、このヤロー』と、胸倉を掴まれてホームに引きずり出された。やめてくださいと言ったのに、もみ合いになってしまい……」

 この時点で刑事たちは中国人の言い分をまったく信用せず、殺人未遂で2人を逮捕した。警部補は、何ら落ち度なく一方的にやられた被害者という見立てで、事件は処理されようとしていたと思われる。ところが、事件は違う展開を見せる。

事件が起きた御茶ノ水駅 ©iStock.com

「御茶ノ水駅で警官転落事件、中国人2人を殺人未遂で逮捕」というニュースが報じられると、所轄の警察署に「あの日、日本人の酔っ払いの隣に座っていました」という女性が電話をかけてきたのだ。「新聞を見ました。中国人が殺人未遂ということで逮捕されていますが、座っていた日本人が悪いですよ。ああいう注意の仕方をしたら、誰でも喧嘩になります」と女性は話したという。

 A氏は「それは、どういうことですか?」と女性の話を詳しく聞いた。すると、女性は「酔っ払いが中国人に『うるせぇぞ』と怒鳴って、口論となった。御茶ノ水駅では酔っ払いが『降りろ、このヤロー』と中国人の胸倉を掴んで引きずり出した。一緒にいた中国人が『やめて』と言っていた」と証言したのだ。この内容は中国人の言い分とぴったり符合する。

 そこにもう一人、警部補の側に座っていたという女性が警視庁に電話をかけてきた。