ここで重要なのは、「協商」は互いに完全に心を許していないからこそ成り立つということです。むしろ、互いにいつ裏切られたり攻撃されるかわからないという恐怖感を持っているからこそ、相手を完全に怒らせないよう気を使い合う。
マフィアのボス同士がよほどのことがないと相手の「シマ」を犯したり、メンツを潰さないように配慮し合うのに似ていると思います。言い方を変えると、こういう関係性を結べる相手であってこそ、「大国」としてのリスペクトの対象にもなるわけです。
もう一つの「本当の主権国家」インド
この点は、プーチン大統領が「本当の主権国家」として挙げたもう一つの国、インドについても同様です。インドはソ連時代からの友好国で、大量のロシア製兵器を購入してくれるお得意様でもあります。
アメリカは2017年以来、ロシアの兵器を購入した国には制裁を科すとしており、実際に多くの国がロシア製兵器を敬遠しているために武器輸出産業は大打撃を受けているのですが、インドは違います。度重なるアメリカの警告にもかかわらず、ロシアからS─400防空システムをはじめとする多くの兵器を導入し続けているのです。
外交的に見ても、ロシアのウクライナ侵攻を表立っては非難せず、西側諸国がロシアのエネルギー資源購入を手控える方向に動く中、ロシア産原油を購入することを検討していると報じられました。
インドにしてみれば、アメリカは重要なパートナーだが、同盟国にはなりたくない、というところでしょう。いわれるがままにロシア製兵器の購入を取りやめたり、ロシア制裁に参加すれば、アメリカのジュニア・パートナー(格下のパートナー)になってしまい、「大国」でいられなくなるということです。
最近、インドのロシア研究者たちとオンライン会議をした際にも、この点は強く感じられました。「インドはあくまでも独立したパワーでいたいのであって、アメリカにもロシアにもなびくつもりはない」というのです。さらに「日本は中国包囲網の一角としてインドに期待しているようだが、我々にはそのつもりはない」とも彼らは明言していました。