さまざまな「大国」がくっついたり反目したり……という状況をうまく利用し、ほかの国に取り込まれないようにしながら独立独歩の地位を守っていく。これがインドの立ち位置なのでしょうし、ロシアの対外関係も同様でしょう。
ただ、国力が衰えていく一方のロシアは、どうしてもつい軍事力に頼りたくなるという誘惑に駆られます。その結果、微妙な均衡を力づくで壊してしまい、かえって孤立を深めているのではないでしょうか。
プーチンが気づいていないこと
こうしてみると、世界は「大国」同士の関係で動いているように見えますし、これは前述したプーチン大統領の世界観そのものでもあります。実際、強大な軍事力を持ち、互いへの恐怖(に基づくリスペクト)が国際政治に及ぼす影響力は無視されるべきではないでしょう。
しかし、重要なのは、これが国際政治の全てではないということです。プーチンは軍事的に独立していない国家を「半主権国家」扱いしますが、現実の国際政治はもちろん力の論理だけで動いているわけではありません。むしろ、経済力、科学技術力、ソフトパワーといった非軍事的な要素の重要性は高まるばかりですし、環境とか人権とか、力の論理とは大きく異なる論理も無視できません。
こうした世界で剝き出しの力の論理に訴えれば国際的に孤立するのは当たり前であって、2022年のウクライナ侵攻以降にロシアが受けている厳しい経済制裁や外資の逃避はまさにこれに当たるでしょう。
さらにいえば、アイデンティティの持つ力というものに、プーチンは非常に鈍感であるように見えます。ベラルーシ人やウクライナ人がいくら文化・言語・宗教などの共通性を持っているといっても、だからロシアとの統一を望むとは限りません。あるいは旧ソ連諸国が貧しいとか軍事力が弱いからといって、モスクワのいうことをなんでも聞くわけでもありません。
ある民族がひとたび独立の地位を手に入れたらそれを守り通そうとするのは当然であって、弱いなら弱いなりに有形無形の力を駆使し、時には「大国」の間でコウモリ外交を行ってなんとか立ち回るものです。
この点が、「大国」を中心とするブロックを単位に国際政治を理解しようとするプーチンの大きな盲点なのではないでしょうか。