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「地上波バラエティ文化終了の弔鐘」にならないことを願う

 一部でも報じられているように、イジられる、痛みをともなう芸が敬遠され、それを持ち味とする芸人はテレビ地上波から番組とともに消えていきました。テレビ番組が「面白くなくなった」ということでYouTubeに人が流れ、コアなお笑いはそれこそ『ドキュメンタル』のようなおカネを払って個人的に観るものというセグメントに戻っていきました。かつて、お笑いが劇場の中で繰り広げられてきた大衆文化であったように。

 こうなると、普段あまり耳にしない芸人さん同士の楽屋オチのようなラジオも貪るように聴き込んでしまいます。好きなのはアウトプットとしての凝縮された数分のお笑いネタなのであって、芸人さんが芸人さんと私生活や価値観を語ることにはいままで何の興味もなかったのに、この一件で俄然近くなります。何があったんだよ。どう受け止めているんだよ。

「痛みをともなう芸はテレビ地上波として不適切か」という議論に終止符を打つ可能性は間違いなくあるでしょう。そのぐらい、大きい事件だと感じるんですが、このぽっかりと空いた穴ができたからといって、場を盛り上げる芸人たちの居場所が少しでも狭くならないようにするにはどうしたらいいのか。

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 まさかの上島竜兵さんの死で、それがそのまま地上波バラエティ文化の終了の弔鐘にならないといいなと思うんですよ。ジジイがノスタルジックに『8時だョ!全員集合』と『オレたちひょうきん族』が表裏でやっていたころの黄金期は良かったとか言ってるのとは訳が違う、日本のお笑い、本当の意味での大衆娯楽の在り方が動いてしまうほど、でかい影響力をもった話じゃなかろうか。

©文藝春秋

 そんなの、いきなり受け入れろといっても無理だから。

 こんなことがあっていいのかってぐらい、衝撃的なことだから。

 言葉に尽くせないぐらい、日本社会に影響を与える大きな出来事でしたし、やっぱりまだ頭から離れない。単にお笑い芸人のメンタルヘルス問題ではなく、芸が持つ底意、人をイジるというのはどういうことか。それを笑うとは何か。コンテンツにして仕事にし、おカネを稼ぐことの是非から、我が国のコンテンツ作りの有り様に至るまで、いろんなものを再考しなければならないという大きな投げかけを、最期に彼はしていったのだな、と。

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【厚生労働省のサイトで紹介している主な悩み相談窓口】

▼いのちの電話 0570-783-556(午前10時~午後10時)、0120-783-556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)

▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)

▼よりそいホットライン 0120-279-338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは0120-279-226(24時間対応)