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朝ドラ脚本が難しいワケ

 朝ドラ反省会のハッシュタグは、2015年度前期の「まれ」のときから目立ち始め、2016年度前期の「とと姉ちゃん」や2018年度前期「半分、青い。」の放送時もなかなかに盛り上がってしまっていた。傑作と言われた前作「カムカムエヴリバディ」のときでさえあった。そこでダメ出しされるのは、まず脚本家だ。

『ちむどんどん』脚本の羽原氏が手がけた2014年の朝ドラ『マッサン』(NHK公式サイトより)

「ちむどんどん」の羽原氏は、2014年度後期にニッカウヰスキー創業者をモデルにした「マッサン」の脚本を書いており、そのときはここまでの批判は浴びていなかった。それは「夢に生きる不器用な日本男児」(制作発表時のPR文)である主人公に脚本家自身、惹かれるところがあり、リアリティを構築できたからではないだろうか。

 対して、「ちむどんどん」は羽原氏に依頼された段階で「沖縄出身のヒロインが料理店を開く」という設定が既に決まっていたという(公式ガイドブックより)。そこに羽原氏が仕事という枠を超えて思いを込められる何かがあったかは不明だ。作家性と言ってもいいその「何か」が半年間展開する朝ドラには不可欠で、主人公の暢子よりも、むしろ亡き父を投影した賢秀こそが主軸に据えたかった人物なのかもしれない。

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ヒロインの母・優子(NHK公式サイトより)

 また、仲間由紀恵演じる優子は沖縄戦を経験したという設定で、深いトラウマを抱えている様子。今後、描かれる予定の優子と夫・賢三の過去こそが、沖縄の苦難の歴史を背負ったストーリーになり、そこでこそ映画『パッチギ!』『フラガール』などで昭和の人間群像をリアルに描き出した羽原氏の手腕が発揮されそうだ。

 朝ドラこと連続テレビ小説は、多くの脚本家にとって到達すべき目標であり、ステイタスでもあるが、それだけにリスクも大きい。民放の連続ドラマ換算すると毎週2話分、トータルで約48話分にも相当する分量を書くことになり、かなり綿密なプランニングと書き続ける気力が必要になる。

 以前、インタビューした脚本家は「同業者が書いた朝ドラを見ていると、今回はあまり興味がない分野のことを書いちゃったのかなと思うことがある。長いだけに馬脚が現れるので怖い」と話してくれた。