「えらい反対された。(結婚相手が)沖縄やからアカンって最初言われて」「九州までやったらええって。沖縄とまた違うって言うのやな」
これは朝の連続テレビ小説『ちむどんどん』ではなく、5月4日に同じNHKで放送されたドキュメンタリー『ファミリーヒストリー』で、俳優・北村一輝の父母が、母のルーツが沖縄にあることを理由に本土出身の父の親族から結婚を反対された過去を振り返った言葉だ。
『ちむどんどん』で差別は描かれないのでは、という懸念
戦前から戦後にいたるまで、沖縄出身者に対する根強い差別が存在した。それは灰谷健次郎による児童文学『太陽の子』の中にも描かれている。「オキナワモン」と沖縄出身者を蔑む料亭の女将に対する、沖縄料理店の娘である主人公の少女ふうちゃんの怒りや、不良少年仲間に「根性ないな、オキナワは」と嘲けられ、「お前らだけがこれまでオキナワなんて言わへんかった。…(中略)…これでお前らとは、あかの他人や」と牙を剥く少年キヨシの姿が、痛みとリアリティをもって描かれる。
『ファミリーヒストリー』で回顧された北村一輝の父母の結婚は1967年、灰谷健次郎の『太陽の子』が出版されたのは1978年。連続テレビ小説『ちむどんどん』が舞台とする沖縄の本土復帰前後の時代とほぼ重なる。そして『ちむどんどん』のストーリーはいよいよ、沖縄編から本土に舞台を移した。
だが『ちむどんどん』の中で、『太陽の子』で描かれるような、あるいは北村一輝の両親が経験したような差別が描かれることはないのではないか、という見方がSNSでは多い。過去の朝ドラがしばしば社会問題に触れることを避けてきたことを思えば、その可能性は高いだろう。
女性アニメーターの開拓者、奥山玲子をモチーフにした『なつぞら』は、彼女の強い思想性とその舞台となる東映動画の労働運動をほとんど描かなかった。インスタントラーメンを生み出した日清食品の創業者をモチーフにした『まんぷく』は、台湾生まれで呉百福という本名を持つ安藤百福を、立花萬平という日本国籍の青年にフィクショナライズした。
あえてこのテーマを描く以上避けられるはずがない、と誰もが思う問題を、朝ドラは何度も迂回してきた。それは脚本家の問題というよりは、連続テレビ小説という枠組みが持つ自主規制なのかもしれない。
描くとしてどう描くべきか、どこまで描くべきか、そしてそれを本当に視聴者が受け入れてくれるのか、ということについても考える。