あの日以来、私は藤浪晋太郎の投球に夢中になった

 彼が、一軍のマウンドに帰ってきた――。

 持ち合わせる力は間違いなく球界トップクラス。鳴り物入りで阪神タイガースに入団し、3年連続2桁勝利を飾る。

 順調にエースの階段を登ったかのように見えたがその後、低迷が続きなかなか結果がついていかず今年ついにプロ10年目を迎えた。

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 2013年3月31日、対ヤクルト 藤浪晋太郎 デビュー戦。プロとしての1球目は150キロのストレート。あの日あの球を見て以来私は、彼の投球に夢中になった。

 滑らかなフォーム、力強い腕の振り、高身長から放たれるボールは球速以上に速く感じた。

 あの時の胸の高鳴りは今でも忘れられない。

ルーキー時代の藤浪 ©文藝春秋

 私がきちんと野球を見始めたのは小6の頃からだったが、あんな気持ちになったのはその時が初めてだったからだ。

 しかしそこから数年後、順調と思われた彼の野球人生は大きく変化してしまう。

 イップスの噂、トレードの噂、中継ぎ転向、二軍の帝王、荒れ球、2度のコロナ感染、遅刻での無期限二軍降格……。

 色々な言葉、噂が付きまとい、いつしか腫れ物に触るかのように……思わず彼から目を逸らしてしまいそうな自分もいた。

 あの時の栄光を振り返り原点に戻るのか。自分のやりたい事を貫き通すのか。

 全ては結果次第というこの世界で、これからどんな物語を見せてくれるのか。

 野球の神様は再び微笑み返してくれるのか。

 彼が自分のエゴと言いつつこだわりを見せる先発への気持ちと覚悟。私はその執念と本気を信じたい。

 どうしても諦めたくない。諦められない。きっとそれはファンも同じ。彼は間違いなく球界の宝、そしてヒーローなのだから。