「すごいのは、佐々木朗希だけじゃない」ことを知らしめたい
「いやいや、いまのロッテにはあの佐々木朗希がいるじゃないか。なにが不満なんだ」
きっと多くの人はそう思っているでしょうし、我ながら面倒くさいことを言っている自覚もあるわけですが、「いや、そうじゃないんですよ」というところを、さらに続けて書いてみます。
これはもう言わずもがなのことですが、佐々木朗希は誰がどう見たって、本物の“怪物”です。かつての日本人最速だった伊良部秀輝のストレートに「とんでもない速さだ」と目を見張った世代からすれば、その存在はもはや隔世の感すらあるほど。ファンの誰もが、久方ぶりの生え抜きスター(それも球界を背負って立つレベルで)の誕生に、心躍らせているのは疑いようもありません。
でも、会う人、会う人に「佐々木朗希すごいね」と言われる現状は、ちょっと前までの「応援すごい」と、構図としてはまったく同じ。“声援禁止”のコロナ禍で「応援すごい」がナリを潜めたと思ったら、今度は「佐々木朗希すごい」が挨拶代わりの定型句として一世を風靡し始めた。
スポーツ紙やテレビのニュースで、佐々木朗希が大々的に取り上げられること自体は、このうえない喜びだし、誇らしくもある反面、それがあまりに一辺倒だと、それはそれでやっぱり複雑。
マリーンズというチーム自体が好きなぼくらとしては、「佐々木すごいね」と言われたら、「千隼もすごいんだよ」と返したいし、「朗希いいよね」と来るなら、「(山口)航輝もいるよ」と応えたい。それが、世にもややこしいマリーンズファンの偽らざる本音でもあるんです。
実際問題、佐々木朗希はこれ以上ないほど「すごい」活躍をしていますし、そんな「すごい」彼を、毎度見殺しにしまくる打線には、時に「いい加減にしろ」とも言いたくはなります。リーグワーストのチーム打率.214は、首位ホークスの.269とも雲泥の差(6月1日現在)。「何度、完封負けを喫したら気が済むのか」と、ため息が出る試合展開も、ここ最近は少なくありません。
ただ、それでもぼくはイチファンとして、他球団のファンにも「すごいのは、応援だけじゃない」、「すごいのは、佐々木朗希だけじゃない」ことを知らしめたい。
このコラムでも以前取り上げた髙部瑛斗は、低調な打線にあってもリードオフマンとしての役割を立派に果たしてきましたし、個人的に偏愛している荻野貴司も満を持して帰ってきた。「信じている」と言い続けてきた安田尚憲にも、先のヤクルト戦で一発が出て(それも2打席連続!!)、ブレーキになってきた打つほうにも、ここへ来て明るい兆しは見えつつあります。
なので、「佐々木朗希すごい」でせっかく増えたライトなファンに、もっとチームを好きになってもらうためにも、いまがまさしく正念場。グラウンドに立つ選手各位には、観に来た人をがっかりさせるような、ビギナーにいきなり「それでもロッテを愛せますか?」と謎の命題を突きつけるようなヒドい負けっぷりだけは、なんとしても回避していただけるよう、切に願う次第です。
もちろん、長年の経験から心を健康に保つ術としての“自虐”を会得してきたベテランのぼくらは、たとえここからさらに成績が下降線をたどったとしても、ファンをやめたりはしないでしょう。
ですが、「佐々木朗希すごい」が、「佐々木朗希しかすごくない」みたいな反語的ニュアンスでこちらに向かってくるのだけは、やっぱりどうにも耐えられない。そのあたりの複雑怪奇なファン心理もぜひとも汲み取っていただき、この先の戦いに臨んでもらえると幸いです。
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