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「今場所は厳しいかも」からの大逆転…照ノ富士が“7度目の優勝”を果たせたワケ《“元安美錦”安治川親方の5月場所総評》

けっぱれ! 大相撲――2022年5月場所

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照ノ富士に感じた「今場所は厳しいかも」

 若隆景は北勝富士と対戦です。変に緊張していないか心配でしたが、そんな心配は全く必要ありませんでした。しっかり立ち合いに踏み込んで組み止め、小手に振り体を寄せて寄り切りました。

 落ち着いていてしっかり準備してきたな、と期待が高まる相撲でした。大関陣は初日から正代は霧馬山に、貴景勝が琴ノ若に敗れました。注目していた琴ノ若は若手らしからぬ落ち着きと、柔らかさ、そして前に出る力も付いてきていて、新三役を十分狙えるなと思わせてくれました。

 そして、横綱照ノ富士は実力者大栄翔との対戦です。初日に馬力のある大栄翔相手にどんな相撲をとるか。結果は見事な相撲でした……大栄翔の方です。

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 立ち合いの鋭さ、のど輪で照ノ富士を棒立ちにして一気に土俵の外へ押し出しました。

 照ノ富士は少し心配な初日でしたが、徐々に良くなってくるかなと思っていました。しかし、中日までまさかの3敗をしてしまいます。いずれも押し相撲に一気に攻められて上体が伸び上がりました。この時点では今場所は厳しいかも、と思っていました。

優勝争いは混戦に!

 若隆景の相撲内容は、先場所同様厳しい攻めと上手さが光っていますが、中日までに5敗してしまいます。対戦する相手も若隆景を攻略しようと様々な攻めを研究してきます。

 これまでは攻略する立場だったのが、攻略される立場になってきました。しかし、これを乗り越えなければ大関には近づいていきません。

 今の大関陣も、この苦しい状況を乗り越えて大関昇進を掴み取ってきたのです。

 優勝争いは混戦です。中日を終え、2敗で一山本、佐田の海、碧山、隆の勝、玉鷲が並ぶ展開です。この時点では誰が優勝するのか全くわかりませんでした。

 これからの後半戦は自分の気持ちと向き合い、その日の一番に集中し、相撲を取りきった力士が優勝戦線に残っていきます。やはり、誰もが優勝したいと思っています。ですから、実際に勝ち星をあげ優勝に近づいていくほどプレッシャーがかかります。

 そういったプレッシャーへの向き合い方も人により全く違います。気にならずいつも通りにできる人や、一日中考えてしまう人もいます。ここからは取組以外の時間も、常にプレッシャーと一緒に生活しているようなものです。

 そして、最後まで優勝戦線に残ったのは隆の勝と、後半相撲内容が良くなり盛り返した照ノ富士でした。