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坂東玉三郎「この作品は美談や世論の怖さに警鐘を鳴らしている」 真山仁が語る『ふるあめりかに袖はぬらさじ』を玉三郎が愛してやまない理由

2022/05/26

source : オール讀物

genre : エンタメ, 芸能

簡単に抜け出せない「美談」の罠

『トム・ソーヤ の冒険』で知られるマーク・トウェインがこんなことを言っている。

 “君たち人間ってのは、どうせ憐れなものではあるが、ただひとつだけ、こいつは実に強力な武器を持っているわけだよね。つまり、笑いなんだ。権力、金銭、説得、哀願、迫害そういったものにも、巨大な嘘に対して立ち上がり、いくらずつでも制圧して、そうさ、何世紀も何世紀もかかって、すこしずつ弱めていく力はたしかにある。だが、たったひと吹きで、それらを微塵に吹き飛ばしてしまうことのできるのは、この笑いってやつだけだな。笑いによる攻撃に立ち向かえるものはなんにもない――(『不思議な少年』より)。”

 玉三郎が本作を愛してやまない理由も、そこにある。

©文藝春秋

 社会に閉塞感が蔓延し始めると、世論が感情的になり大きなうねりとなって社会を覆う。そういう時には捏造された「美談」も生まれやすくなる。なぜなら、多くの人が不安から逃れるために、別の何かに縋りたくなるからだ。

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 しかも危険なことに、そういうムードの渦中にいると、「美談」の罠にはまっていても、自覚もないし、簡単に抜け出せない。

玉三郎と有吉佐和子が処方した「フェイクニュース除けの薬」

 そんな時、実生活を離れたエンターテインメントというのは、実に頼りになる。

 昨年末、ロングインタビューをする機会があった時、『ふるあめりかに袖はぬらさじ』が話題になった。

「コロナ禍で息苦しい時期が長くなり、閉塞感が広がって、世論の暴走のようなものが起きそうで心配だ」という話をした。

「そろそろ『ふるあめりかに袖はぬらさじ』を上演する時かも知れない」と、彼は言った。

平成19年12月歌舞伎座での坂東玉三郎 ©松竹

 そして公演が、実現したのだから見逃すわけにはいかない。

 幕が上がれば、あれこれ考える余裕は与えてくれないだろう。大いに笑い、泣いている内に、物語はフィナーレを迎えてしまうからだ。

 だが、きっと劇場を後にした頃から、じわじわと玉三郎と有吉佐和子が処方した「フェイクニュース除けの薬」が効いてくるはずだ。

 舞台は、6月2日から27日まで、歌舞伎座で。

INFORMATION

(撮影:岡本隆史)

「六月大歌舞伎」
2022年6月2日(木)~27日(月)
劇場:歌舞伎座
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/761

坂東玉三郎「この作品は美談や世論の怖さに警鐘を鳴らしている」 真山仁が語る『ふるあめりかに袖はぬらさじ』を玉三郎が愛してやまない理由

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