1ページ目から読む
2/4ページ目

「あ、そうなんですね」

 と返してくれる人もいる。

「私もセブン‐イレブンだと思います」

ADVERTISEMENT

 と返してくれる人も稀にいる。「コーヒーはあまり好きではなく」と正直に言ってくれる人もいる。いったい何のことを話しているのかわからず、「え?」「なに?」と聞き返してくる人もいる。それに対して、私からも特に話の続きがあるわけではない。

「このカメラマン、大丈夫?」そう思われたらこっちのもの

 あるいは冬だと、

「セブン‐イレブンのおでんとファミリーマートのおでん、どっちがおいしいと思いますか?」と、同じく突然聞いてみる。

 反応はコーヒーのときより少しいい気がするが、やはり唐突感がありすぎて、大抵は、やはり「はぁ?」という反応であることが多い。なんか、この人、変じゃない? なんでこんなこと聞いてくるの? 間が悪くない? といった微妙な空気が流れるのがわかる。

 ただ、意外と思われるかもしれないが、こんな会話の後、相手からいい笑顔がこぼれることが多い。嘘だと思われそうだが本当だ。

「このカメラマン、大丈夫?」──相手にそう思われたらこっちのものだ。間が悪い、KY、あるいはマイペースすぎるとか、なんでもいいのだが、私はここで明らかに空回りしている。つまり、かなり恥ずかしい存在になっている。そんな空気ができあがる。すると不思議なことに、撮られる側は次第にリラックスしてくれるのだ。肩の力が抜けていくのが目に見えてわかる。それに、食べ物の話題は地雷を踏むことが少なく、ほどほどにプライベート感があっていい。天気の話題も悪くないが、あまりに当たり障りがなく、まったくプライベートに踏み込めないのであまりすることはない。

まだ誰も撮ったことのない表情を

 俳優やタレントとの話題は気をつけるべき点がいくつかある。特に家族などの話題はNGの場合がかなり多い。以前、ある女優を撮影しているとき、女優側からお子さんの話題が出て、さらに「男の子なんです」と言うので、その流れで「お名前なんていうんですか?」と訊ねたら、いきなり沈黙になってしまった。すぐに公表しないことにしているのだと察したが、冷や汗が流れた。その後は当然のように、雰囲気が極端に悪くなってしまった。これは、まさに地雷を踏んでしまった例といえるだろう。

 実はこの「コーヒー作戦」あるいは「おでん作戦」の技(「技」といっていいものか迷うところだが)を編み出すまでに長い時間がかかった。40歳を過ぎた頃に初めて確立できた。20代の頃は目の前の方がテレビで見たことがあるというだけで、カメラを持つ手が冗談みたいに震えた。緊張し過ぎて頭が真っ白になり、フィルム一本まるまる露出を合わせないまま撮ってしまったこともある。その方を時折テレビでお見かけすると、いまでもあのときの自分の焦りを鮮明に思い出す。