しっとり重たそうな雪が降り積もり、野山や人家を覆い隠している。空気は冷え切って清新そのもの。
これぞ日本のリアルな雪景色。そんな光景をたっぷり見せてくれるのが、この3月に刊行された写真集『雪の刻 / THE TIME RULED BY SNOW』(赤々舎)。写真家の中井菜央さんが、日本有数の豪雪地帯たる新潟県津南町に長期間滞在し、周辺の奥信越を、雪を中心にしてその影響下にある人、自然、物など、多彩に捉えた写真集だ。
雪国特有の「時間の流れ」
ページを繰るたび、庇から崩れ落ちる雪塊、雪焼けした男性の顔、雪解けのあとに萌え出る草木……。雪国のさまざまな光景が現れる。それらが想像を超えて多様かつ鮮やかなことに、驚かされてしまう。雪に閉ざされた自然と生活なんて、どんよりとグレー一色なのではと見くびっていたが、まるで違った。この世はなんて豊富な質感と色に満ちていることか、世界のどんな細部もまこと美しいものなのだと実感させられる。
それぞれの写真からは、雪国に流れる時間の特殊さも感じとれる。降り積もった雪をクローズアップした写真はしんとして、時の流れまで凍り付いてしまったかのような永遠性が漂う。一方で、新緑がいっせいに芽吹く雪解け時期の写真には、止まっていた時が一気に爆発してぐんぐん進む勢いがある。時間は一様なペースで刻まれるのではなく、かくもダイナミックに伸び縮みするものなのだと改めて知る。そして、冬の季節を越えて奥信越固有の時間の伸縮を決めているのが雪と、中井さんは直観したようなのだ。
静けさの極致から恐るべき躍動感まで、こんなにバラエティに富んだ光景をよくぞ写真に閉じ込めていったものだ。膨大な時間をかけて撮られただろうことは窺えるけれど、いったいどうやってこれら写真群はつくられていったのか。
住み込みで皿洗いしながら撮影を敢行
聞けば作者の中井菜央さんは、雪国出身ではなく滋賀生まれである。なのに人一倍、北国への憧れが強かった。