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《ユージーン・スタジオ》世界各地の街頭でキスされたカンヴァス、舞い落ちる金箔と銀箔… 東京都現代美術館で体感する“美と野心”

アート・ジャーナル

2022/01/08

 とびきり美しいものに触れたい! 自分の想像力が駆動し始める瞬間を感じたい!

 アートに対して抱くそんな期待に、いま最も応えてくれる展覧会といえばこれだ。東京都現代美術館での「ユージーン・スタジオ 新しい海 EUGENE STUDIO  After the rainbow」展。

 

人の行為が染み込んだカンヴァス、館内に現れた水辺の光景

 会場を訪れて最初に対面するのは、壁に掛かった幾枚ものカンヴァス。一見するとどれもただ真っ白で、何も描かれていない。〈ホワイトペインティング〉と題されたこのシリーズ、いったい何がどうなっているのか。

 これらカンヴァスには絵柄の代わりに、無数の人たちによる「体験」が染み込んでいる。各カンヴァスはかつてアメリカ、メキシコ、イタリア、スペインなど世界各地の街頭に持ち出され、道行く人にキスをしてもらっているのだ。一枚につき、数十人から百人ほどの協力を得ているという。

まるで掌編小説のページを開いた気分に

 そう知って改めて真っ白の画面と向き合えば、ああここに無数の人が顔を寄せたのか、みんな何を考え、誰を想いながらキスしたのかと思いを馳せたくなる。まるで掌編小説のページを開いた気分に浸れるのだった。

《海庭》

 次いで出くわすのは、広大なアトリウムいっぱいに水を張った光景。海を模したようにも、築かれた大規模な庭にも見える空間全体が、《海庭》と名付けられたインスタレーション作品だ。

 ここには外光が注ぐので、気候・天候・時間によって海とも庭ともつかぬ空間は、さまざまな表情を見せる。ほとりに佇んでいると「崇高」という言葉が頭に浮かぶ。