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「幼いころから無性に雪が好きだったんです。空から舞い落ちた綿雪が、地面に触れた途端に消えていくさまが、子どもの私にはおもしろくてしかたなかった」

 とご本人は言う。

 長じて写真の仕事に就いてからも、いつか雪をモチーフにした作品をつくりたいとの思いが胸中に居座った。

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写真集「雪の刻」より

早朝から夕方までほうぼうを歩き回って撮影

 思いは高じ、機は熟した。2013年ごろから、時間を見つけては北海道、東北、北陸と全国の豪雪地帯へ撮影に出かけるようになる。途上、たまたま訪れた新潟県津南町に、強く惹かれた。

「湿った重たい雪が積もって、あちらこちらに独特のフォルムを生み出しているんですよ。圧倒的な積雪量の中で生きる人々の暮らしぶりも気になって、腰を据えて撮影をしたくなりました」

写真集「雪の刻」より

 2015年冬から毎シーズン、100日ほど滞在して撮影を続ける生活が始まった。

 当初は津南町に知り合いもいなかった。さて滞在先はどうするか? 3ヶ月ほどの滞在のため部屋を借りるのは無駄が多い。一軒家を借りるにしても、女性ひとりで除雪作業などは到底こなせない。

 思案の末、住み込みアルバイトをしながら滞在しようということに。町内のホテルで、皿洗いの仕事に就いた。

 寮に住み込み、早朝から夕方までほうぼうを歩き回って撮影。夜はホテルで皿を洗い続ける日々を続けた。

 日中とはいえ雪の降りしきるなか、カメラを持って何時間も歩き回る人物は、どうしても悪目立ちしてしまう。中井さんの存在は、あっという間に噂になる。

写真集「雪の刻」より

雪の迷路で道に迷うこともしばしば

「ありゃだれだ?」

「東京から来てる写真屋さんらしいが……」

 かなり怪訝に思われていたようだが、本人はまったく気づいていなかった。

 ただし、今シーズンに観測史上最高積雪419センチを記録した通り、津南の積雪は半端ない。生活道路はかろうじて除雪されるが、それ以外のあらゆる土地は雪に埋もれ、町は巨大な迷路のようになる。土地勘がない中井さんは、雪の迷路で道に迷うこともしばしばだった。見かねたか、土地の人が声をかけてくれるようになった。