――『拾われた男』は語りに特徴がありますよね。講談調で、毎回「◯○はまた別のお話で」という結びで次の話に移るのが印象的でした。
松尾 僕は物書きではないので、ちょっとしたギミックみたいなものを使って誤魔化そう、っていう気持ちもありました。
結びのアイデアは、堺正章さん主演のドラマ『西遊記』から来ていると思います。「それはまた次回の講釈で」という結びが、自分の中でどこかに残っていたんですね。
枕として昔のエピソードをつけているのは、僕が欲張りで、一度に2つのエピソードを書きたかったから。『パルプ・フィクション』みたいな時系列が入り混じった作品が好きなんです。落語って枕から本題に入るときにスパッと話が切り替わるじゃないですか。ああいう語りを文字でやってみたかったんです。話が進むごとに枕のエピソードにも徐々に繋がりが出てきて、書いていて楽しかったです。
ちなみに作中で1箇所だけ、台本っぽく書いている回があるのですが、あれは一番恥ずかしいエピソードだからです。あんな恥ずかしいこと、普通の文章では書けなかったので……。
高橋一生さんの多才ぶりに「スタンド使いなんじゃないか」
――文庫版では、巻末に「松尾くんの自伝に寄せる文」というタイトルで、俳優の高橋一生さんに書いていただいています。高橋さんとのご関係について教えてください。
松尾 出会いは12~13年前のドラマです。ちょうどその頃『SP』の映画が終わったところで、一生くんと共演した話を岡田准一くんに話したら、岡田くんと一生くんが高校の同級生だということが判明して。岡田くんとは『SP』でずっと一緒にやってきたから、勝手に親戚みたいな気持ちで、一生くんと仲良くなろうと思いました。一生くんって、ちょっと不思議な感じがするじゃないですか。多分、僕みたいにズカズカ踏み込んでくる人がいなくて珍しかったんでしょうね……だから今でも拒まれることもなく、関係が続いています。
最初は友達として好きだったんですが、途中から尊敬に変わりました。最近はよく「高橋一生さんと仲いいんですね」とか聞かれますけど、「こっちは大ファンです」という気持ちです。
ちなみに一生くんと共演したドラマの監督は樋口真嗣さんでした。そもそもこの本自体、樋口さんに呼ばれた飲み会での出会いが発端で始まったので、樋口さんなくしてはこの本は無かったかもしれません。
――実際文章をご覧になっていかがでしたか?
松尾 素晴らしかったですよ。いや、ちょっとびっくりしました。なんなら1冊、一生くん自身のことを書いてもらいたいくらいです。でも、もしそうなって「じゃあ松尾くんが解説を」と頼まれても、あんな粋な文章を書けるかどうか自信がないですね。
なんでこんなに何でもできるんかなって思いました。未来から来たとか、何か秘密があると思うんですよ。特殊能力持ってるか、あれは多分スタンド使いですね(笑)。
後編に続きます。
(写真:今井知佑)