偶然拾った1枚の航空チケットがきっかけで人生が変わった——。
そんな「シンデレラストーリー」を経験したのは『SP 警視庁警備部警護課第四係』『シン・ゴジラ』などの演技で注目され、今や個性派俳優としての地位を揺るぎないものにした松尾諭さん。松尾さんが自身の半生を綴った自伝“風”エッセイ『拾われた男』は、仲野太賀さん主演でドラマ化、マンガ化など、様々な展開を見せている。
上京直後は役者の仕事に恵まれず、借金もあったと語る松尾諭さんに、当時のお話を伺った。
バイト生活に借金……何とかなったのは「がめつい」精神だから?
――『拾われた男』を書かれたきっかけをお願いします。
松尾諭さん(以下、松尾) 僕の記憶が正しければ、飲み会で文春の編集者さんから「松尾さん、何か書いてみませんか」って言われたんです。今まで若い頃に航空チケットを拾った話を何百回もしてきたから「それを文字に起こせばいいか」と思って。そのエピソードが文春オンラインでの連載に発展して。もちろん最初は本になるなんて思っていませんでしたよ。本になったときは周りからエッセイ、エッセイ、って言われ続けて「エッセイって何やろな」と思いました。エッセイを書いている感覚はなかったですね。
借金の話とか、10人以上の女性にフラれた、とか、自分の情けない話は抵抗もなく書けるんですが、「俳優はあまりパーソナリティをつまびらかにするべきではないのかな」とも思っていました。今後僕が何かを演じているときに、見た人から「松尾さんはあんな人生を送ってきたんだ」ってイメージをもたれても嫌なので……ちょっとした抵抗で、帯には「自伝“風”エッセイ」と謳っています。
――松尾さんは俳優を志して24歳で上京され、レンタルビデオショップ「新宿T屋」をはじめ長い間バイト生活を続けられていましたね。拾ったチケットがきっかけで芸能事務所に所属できたとはいえ、生活への不安はなかったのでしょうか?
松尾 あまりなかったですね。少し鈍感なのかもしれません。役者の仕事で食えるようになるまで、ほとんど焦りもなく……。「役者が駄目だったとしても何とかなるやろ」とも思っていました。一応目標があったから、なんとか東京にしがみついてたのかな。