気鋭の作家、中村淳彦氏と花房観音氏のふたりが東京・池袋の“闇”を描いたノンフィクション『ルポ池袋 アンダーワールド』(大洋図書)が話題になっている。SDGsと再開発の裏で起きる怪異や殺人事件、路上の闇に立つ異常性愛者たちを綴った内容は、実話とは思えないほど“衝撃的”だ。
ここでは、同書から一部を抜粋して紹介。中村淳彦氏が、池袋の風俗で働く女子大生を取材し、風俗嬢になった理由や大学生の“貧困事情”に迫る——。(全2回の2回目/1回目から続く)
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池袋西口のコメダ珈琲で悩みを打ち明けるAV女優
ずっと昔から、池袋は「埼玉県の首都」「埼玉県の植民地」と揶揄されている。
実際に休日の西武百貨店、東武百貨店は埼玉県民だらけであり、池袋で石を投げれば埼玉県民にあたるのは事実だ。どうして池袋は埼玉県民だらけなのだろうか、鉄道の路線図を見ればあきらかだ。
JR埼京線は池袋から浦和、大宮方面に、大宮から神奈川県大船までをつなぐJR湘南新宿ラインは赤羽と池袋が東京の玄関口となっている。池袋を始発駅とする西武池袋線は所沢を経由しながら、埼玉県の秘境といわれる西武秩父まで運行し、同じく池袋を始発駅とする東武東上線は川越を経由して、人口2万人台の小川町、人口3万人台の寄居まで路線がつながっている。
池袋駅の主要路線だけで埼玉県の中心部、東部、秘境までを網羅している。直線的な路線のない越谷、春日部などの県西部も、もっとも近い東京副都心は池袋となっている。埼玉県全域から県民が集まっていることが、池袋が「埼玉県の首都」「埼玉県の植民地」と呼ばれている理由なのだ。
ここまで「池袋=変態」という話が散々出てきた。そうなると、埼玉県民が変態という見方もできる。残念ながらそれはある程度事実で、埼京線が痴漢まみれというのは有名な話だ。1985年9月に開通した埼京線は、ラッシュ時の混雑が激しかった。埼京線は埼玉県のベッドタウンに居住するサラリーマンの東京圏への通勤が主な利用目的で、埼玉県民の変態男性が埼玉県民の女性に痴漢をしていることになる。
当時、アダルトビデオ専門誌のライターだった筆者が埼京線の痴漢のすさまじさを聞いたのは90年代後半だった。変態まみれということを聞きつけた数々のAV監督が、埼京線のカリスマ痴漢のドキュメントや、埼京線での痴漢&本番撮影を決行した。いまでは考えられないが撮影隊は池袋に集合し、埼京線を根城とするカリスマ痴漢の指南を受けながら、埼京線車内で当たり前のように本番撮影していたのである。
埼京線が痴漢まみれであるデータもあった。警視庁「卑わい行為等被害路線別検挙件数」(2004年)によると、埼京線の検挙件数は217件、東京の主要路線である山手線、中央線、総武線などを抑えてワースト1位となっている。JR東日本は痴漢天国となっている埼京線の健全化に着手し、巡回強化、車内防犯カメラ設置、女性専用車両の設置、SOSボタンの設置など対策を進めた。企業努力によって、いまは少しずつ痴漢検挙数を減らしている。
本章では池袋にいる埼玉県民がどのような人々かを見ていくことにする。まず先日、埼玉県草加市在住のあるAV女優に池袋西口のコメダ珈琲に呼びだされ、「まったく稼げません……」という悩みを聞いたことがあった。