天皇皇后両陛下は6月9日、ご結婚29年を迎えられました。元学習院OBオーケストラ副団長で、天皇陛下の相談役を長年にわたって務めた鎌田勇氏の手記(「文藝春秋」1993年3月号)を再録します。(全2回の2回目/前編から続く)
(※年齢、日付、呼称などは掲載当時のまま)
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お気の毒なぐらい真剣に悩まれて
一時期は、殿下はどういうタイプが将来の皇后になられるのに相応しいかということを真剣にお考えになった時期がおありになるようでした。
当時、ちょうど秋篠宮殿下が結婚された頃で、冗談半分におっしゃったのですが、秋篠宮殿下がお出掛けになられた折、「今日はやけに周囲が静かだと思ったら、紀子がいっしょでなかったからなんだ」という話をされたと伺っていました。記者の方々は妃殿下ばかり追いかけていたようですね。
実は、私はイギリスのチャールズ皇太子とダイアナ妃が来日された時、当時はもちろん現在のような問題はなかったわけですが、ダイアナ妃ばかりが注目されてチャールズ皇太子の影が薄れてしまうことに若干疑問を感じておりました。そこで殿下に対して、「秋篠宮さまと紀子さまの場合、皇室への親しみやすさを増すために非常によろしいことだったと思いますけれども、皇太子さまの場合、皇室の伝統からもやはり皇太子さまが前面に出て目立っていただいて、お妃さまは後ろに控えていて、気がついたら妃殿下もいらしたというような女性の方が、望ましいのではないでしょうか」
という個人的な意見を申し上げたこともございました。すると殿下は、
「そうですね。やはりティファニーに行って買物ばかりされるようなひとは困りますね」
ということをおっしゃられた。この言葉は後に宮内庁での記者会見でも述べられた言葉でした。
その時、私は価値観のお話もしたんです。「殿下と同じような価値観のひとで、しかも後ろに控えていてむしろ目立たないような女性だったらいいなあなどと思います」
と申し上げたんです。そうした意見を殿下がお受け入れになったかどうかはわかりませんし、先のティファニー発言もどなたか具体的な方を念頭においてのことではないと思いますが、殿下自身は、お妃の問題も含めて将来のことについて真剣にお考えになり、本当にお悩みになって、見ていてお気の毒になるぐらい真剣な場面もございました。