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「なぜそんなに贅沢な空間が必要なのか」男性社員からの声で明らかになった女性専用クリニックにおける男女間のギャップ

2022/06/10
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 株式会社ファムメディコの佐々木彩華さん(37歳)は、2019年に「女性による女性のための人間ドックコンサルティング事業」を立ち上げ、2021年には東京・丸の内で働く女性たちのための専門クリニックである「クレアージュ東京 レディースドッククリニック」の開院に携わった。同院では、従来の男性サラリーマン向けの「健康診断」ではなく、女性がかかりやすい疾患に対する検査を充実させるなど、今までにない取り組みを数多く行っている。一介のサラリーマン研究員に過ぎなかった佐々木さんはなぜ、働く女性たちのためのクリニックを開設させるに至ったのだろうか。(全3回の2回目/#1#3を読む)

「女性に必要な検査が包括された“オールインワン”の女性のためのクリニックを作りたい」

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 と提案した佐々木さん。彼女が勤務するアンファー株式会社は発毛や育毛ケアで有名な「スカルプD」に代表されるように、また会社のキャッチコピーが「予防医学のアンファー」であったように「予防医学」に特化した会社だった。

 だから、佐々木さんが提案した本格的な「診察、治療」を行うクリニックを作るというのは会社にしても「未知の領域」だった。幸いしたのは、当時、「アンファー」では、健康に関わるコンサルティング事業――例えば良質な睡眠を追求する睡眠事業等、本体から切り離して事業化しようと進めていた時期でもあったことだ。

 新しい試みであるがゆえに紆余曲折を経ながらも、佐々木さんの提案は受け入れられ、彼女はクリニックコンサルティング立ち上げの責任者に任命された。

 しかし、女性専門クリニック開設実現への道のりは想像以上に困難を極めていたという。

クレアージュ東京 レディースドッククリニック ©️文藝春秋/撮影・鈴木七絵

女性が求める「リラックスでき、身も心も開放される場所」を

 特に佐々木さんがクリニックを開院提案する過程で一番痛感したのは「男性と女性との捉え方のギャップが大きい」ということだった。

「私たちが目指したクリニックのコンセプトは『ここに来ればリラックスでき、身も心も解放される場所』でした。一般的な病院にありがちな『無機質な白い壁』『まず鼻を突く薬の匂い』『冷たいプラスチックの椅子』『狭い空間』『低い天井』といった、当たり前となっていた病院のイメージを覆し、女性が求める『安心』『快適』『心地よさ』を追求しようと思ったんです。

広々としたロビーには観葉植物も置いてある ©文藝春秋/撮影・鈴木七絵

 ドクター含めスタッフ全員が女性なのは前提ですが、それ以外にも例えば、椅子はプラスチックではなく、革張りのゆったりしたソファを設え、壁は温かみのある柔らかい色調で統一する。待合室には開放感のある大きな窓があればいい。その窓からリラックスできる緑豊かな景色が広がっていたらベストです」(佐々木さん、以下同)

佐々木彩華さん ©文藝春秋/撮影・鈴木七絵

 ところが、佐々木さんらが求めるクリニックの在り方に男性社員から「もっと効率を求めたらどうなのか?」「そんなに贅沢な空間が必要なのか?」という疑問の声があがった。その度に、佐々木さんはなぜリラックスできる空間が重要なのか、一つ一つその必要性をゆっくりと説いていかなければならなかった。