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「女性だけのクリニック」は、健康保険組合の補助が難しい

 そうやって徐々に男性たちの理解も得られるようになった頃、次に佐々木さんらの前の立ちはだかった壁が健康保険組合の問題だった。

「最大の健康保険組合と契約するのが厳しいということが分かりました。一般に企業は健保と契約し、その健保から出る補助金を使って、社員らが診療を安く受けられる仕組みとなっています。ところが、その最大手である多くの中小企業が加盟する健保組合から、私たちの『女性だけのクリニック』は、補助の対象にすることができない、とお話しを受けてしまいました。

 理由は単純でした。多くの中小企業が加盟する健保組合は、男女ともに受け入れる施設に補助金を出すことを大前提にしていたからです」

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ロビーの窓からは皇居の緑を望めるようになっており、カウンターテーブルには電源プラグも完備されている ©文藝春秋/撮影・鈴木七絵

 最大の市場を逃すことは痛かった。社内からも、「これで経営が成り立つのか」という指摘が出たという。

 しかし、佐々木さんはここで諦めるわけにはいかなかった。そこで、健康保険の仕組みについて調査を進めると、近年では企業側が、加入する健保を社員個人に選ばせる「選択型」の健保が増えつつあることがわかった。

「『選択型』の企業に勤めている方で、私たちのクリニックを利用したい人はその補助が出る健康保険に乗り換えることができるとわかりました。それならば、必ずしも多くの中小企業が加盟する健保組合の補助対象にならなくても、クリニックの運営を軌道に乗せることができるのではないかと、社内を説得して回ったんです」

 女性専用のオールインワンクリニックが出来れば、仕事や育児の合間を縫って何度も健診に行く手間や、企業健診で男女関係なく検査室の前で待つストレスを解消することができる。佐々木さんは、これまでの聞き取り調査から、オールインワンクリニックの需要に自信を持っていたのだ。

健診後にショッピングを楽しめるようパウダールームの使い心地にもこだわっている ©文藝春秋/撮影・鈴木七絵

立ち上げと同時に“健診の啓発運動”も

 佐々木さんたちはさらにクリニック立ち上げの準備と並行して実際のクリニックの萌芽とも言うべき“健診の啓発運動”も行った。

「女性に多い『子宮』(Y)、『大腸』(O)『乳房』(U)の癌を対象としたことから『YOU健診』と名付けた健診を行う一方、何度もセミナーを開いて啓蒙活動を続けるようにしたんです」

YOU検診

 社内には、セミナーを開くことや啓発運動を行うことの効果を疑問視する声もあったが、佐々木さんらはクリニックの「作り込み」をする上でも女性の生の声や生の意識が必要不可欠と考えた。そして、その点を何度も社内で訴え、活動を継続させた。