株式会社ファムメディコの佐々木彩華さん(37歳)は、2019年に「女性による女性のための人間ドックコンサルティング事業」を立ち上げ、2021年には東京・丸の内で働く女性たちのための専門クリニックである「クレアージュ東京 レディースドッククリニック」の開院に携わった。同院では、従来の男性サラリーマン向けの「健康診断」ではなく、女性がかかりやすい疾患に対する検査を充実させるなど、今までにない取り組みを数多く行っている。一介のサラリーマン研究員に過ぎなかった佐々木さんはなぜ、働く女性たちのためのクリニックを開設させるに至ったのだろうか。(全3回の3回目/#1#2を読む) 

 佐々木さんらはしっかりとした手応えを感じていたが、社内が完全に“女性のためだけのクリニック”設立に向けて走りだしていたわけではなかった。クリニックにとっても最大の投資であるだけに、多大な投資をしてもらってもよいのか、とグループ内でも懸念の声があがった。

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 コストもそうだが、そもそも女性医師やスタッフをどれほど集められるのかも懸念材料だった。そして、最大の懸念として、持ち上がったのが「場所の確保」の問題だった。

クリニック内は自然光が多く入るよう設計されている ©文藝春秋/撮影・鈴木七絵

理想の物件探し…しかし条件に叶ったものはまったく出てこず

 女性のためだけのクリニックは、子供を育てながらも働く世代が最大のターゲットであるから、利便性も考えて、丸の内や大手町などのビジネス街につくるのが理想的だ。駅近ならばさらに良い。

「従来の無機質な病院のイメージを覆すような内装を施したいので、広さは最低でも400坪は欲しい。そして、外を見渡せる大きめの窓にゆったりとした高さの天井……。それから患者さんが自由に出入りできる、オートロック方式ではないビルであることも重要だと考えました」(佐々木さん、以下同)

佐々木彩華さん ©文藝春秋/撮影・鈴木七絵

 しかし、まだコロナ禍前だった当時の都内の空室率は1%を切っていた。佐々木さんは複数の不動産会社を通じて理想の物件を探したが、条件に適ったものはまったく出てこない。

「このままじゃ、クリニックできないじゃん」

 考えあぐねた佐々木さんは、「丸の内にはこのクリニックが必要です」と、東京・丸の内の“大家”ともいうべき会社「三菱地所」に直談判することにしたのだという。

“新たな丸の内”を作り出した伝道師を訪ねて

 かつて“三菱村”と呼ばれるほど三菱系の企業が集まった丸の内は、特に三菱重工に代表されるような重厚長大産業が蝟集し、平日はダークスーツのビジネスマンで溢れる一方、土日ともなれば閑散とし、無機質なビルが並ぶ“灰色の街”だった。

 ところが、2002年の丸ビル竣工から街の様子が変わり始めた。丸の内の顔ともいうべき仲通りは、緑に溢れ、トップブランドが立ち並び、土日にはビジネスマン以上に家族連れや観光客で賑わう街へとその表情を一変させた。

 佐々木さんが直談判にいった井上友美さん(三菱地所エリアマネジメント企画部マネージャー)は、まさにその変貌する丸の内を作り出した伝道師のような人物だった。

 井上さんが途中入社した2007年は、「丸ビル」と対をなす「新丸ビル」がオープンした年だ。「丸ビル」「新丸ビル」を中核にして丸の内を大胆に変える。そのプロジェクトに手を上げ、採用されたうちの1人が井上さんだったのである。