「小林麻央さんのような、母親が子供を残したまま先立つ不幸は、病の検診、早期の発見で減らすことができる。その思いで私はこの5年間、必死でやってきました」

 こう語るのは株式会社ファムメディコの佐々木彩華さん(37歳)だ。彼女は、2019年に「女性による女性のための人間ドックコンサルティング事業」を立ち上げ、2021年には東京・丸の内で働く女性たちのための専門クリニックである「クレアージュ東京 レディースドッククリニック」の開院に携わった。同院では、従来の男性サラリーマン向けの「健康診断」ではなく、女性がかかりやすい疾患に対する検査を充実させるなど、今までにない取り組みを数多く行っている。一介のサラリーマン研究員に過ぎなかった佐々木さんはなぜ、働く女性たちのためのクリニックを開設させるに至ったのか。そこには同世代の元アナウンサー・小林麻央さんの死が大きく影響したという。(全3回の1回目/#2#3を読む)

佐々木彩華さん ©文藝春秋/撮影・鈴木七絵

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子育て世代としてショックを受けた、小林麻央さんの死

「予防医学」や「アンチエイジング」に興味を持ち、最先端医療のフロンティアに立ちたいという思いから、佐々木さんは2010年に東京大学大学院新領域創成科学研究科を卒業した後にアンファー株式会社へ入社した。入社後はアンファーのグループ会社において、医療コンサルティング部門で遺伝子診断のプログラム作成のアドバイスやクリニックの院内処方プログラム支援のような業務に携わり、忙しい日々を送った。そんな佐々木さんに、転機が訪れたのは、2歳になる長男を育てながら仕事に奮闘する2017年のことだった。

 その年の6月、歌舞伎役者・市川海老蔵さんの妻、小林麻央さんが2人の幼子を残し、34歳という若さで乳がんのために他界した。幼子を抱える、同世代の佐々木さんは「子供を持ちながらも働いている世代の何か役に立つことはできないか」という思いで職場に復帰していたから、彼女の死は本当にショックだった。