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「母親が子供を残したまま先立つ不幸は減らせる」小林麻央の死をきっかけに、サラリーマン研究員が働く女性たちのための女性専用クリニックを立ち上げるまで

2022/06/10
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企業健診の補助対象にならない女性特有の疾患

 またこうした企業健診プログラムでは、大半の企業が「子宮頸がん」はおろか、「乳がん」の検診プログラムも積極的に勧めていない。さらに、多数の大手企業で採用されている巡回健診(会社に健診バスがくる形式)の場合、乳がんや子宮がん検診は同日実施できないため、別の日に行く必要があるのだ。

「そもそも、企業などの健診の内容やプログラムは“働くのは男性”という時代に制度設計されたもので、女性特有の疾患をケアする仕組み作りがなされていないんです。例えば某企業の企業健診では、男性の成人病予防のための検査に偏重しているため、男性に多い疾患は企業健診の『補助対象』になるのに対して女性特有の疾患――例えば『乳がん』『子宮がん』『子宮筋腫』の検査については補助の対象になっていなかった。そんな例が多く見られました」

©文藝春秋/撮影・鈴木七絵

 しかし、女性の場合、「子宮頸がん」の罹患数は20代後半から急上昇し、40代前半から後半にピークを迎える。同じく「乳がん」も、30代から罹患者は増え続け、40代後半と60代後半で2回のピークを迎える。こうした状況がありながらも、女性社員たちに婦人科検診や受診を積極的に薦めている企業はわずかしかなかった。健診施設を対象とした調査によると「乳房触診・画像検診」をオプションとしてやっている健診施設は全体の53.4%、「子宮頸部細胞診」をオプション化しているのは46.6%だったという。

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忙しい子育て世代の働く女性が、気軽に検査ができる体制を

「当然ながら、両方の健診を実施している健診施設となるとさらにパーセンテージは低くなります。両方の健診を受けようとすると、子育てや仕事の合間を縫って健診施設を探し、それから予約を取り付けて、そしてようやく受診できるという状況だったのです」

広々としたロビーには革張りのソファを備えている ©文藝春秋 撮影・鈴木七絵

 佐々木さんは、こうした実態に触れて「乳がんや子宮頸がんなどの発見が遅れてしまう根本原因である、“健診の受診率の低さ”は、ただでさえ忙しい子育て世代の働く女性が子育てや仕事の合間に気軽に検査ができる体制、施設がないことに起因している」と考えた。

「これは、単純に“意識の問題”などと片付けてはいけない問題だ」と考えた佐々木さんは会社の上層部に1つの提案をする。

「女性に必要な検査が包括された“オールインワン”の女性のためのクリニックを作りたい」
 

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