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女性特有の疾患に対する圧倒的な情報不足

 その成果は思った以上だった。一般向け、企業向けのセミナーやSNSを通じて3千名以上の女性の生の声が集まったのだ。そして、それらのデータを分析した結果、女性を取り巻く「健診や受診制度の不備」の実態がわかったことに加え、佐々木さんらを驚かせたのは、多くの女性が女性特有の疾患に対する圧倒的な情報不足に陥っているという事実だった。

着心地や丈感にこだわった検査着はとても好評だという ©文藝春秋/撮影・鈴木七絵

「多くの女性が、子宮頸がんの検診を受ければそれで大丈夫と思い込んでいることが調査からわかったんです。でも実際には子宮頸がん検診だけでは不十分なんです。例えば、子宮頸がんの検診を受ける場合は同時に、女性の3人に1人がなると言われている『子宮筋腫』や、10人に1人が罹患するとされ、不妊症状をもたらす可能性がある『子宮内膜症』といった女性にとって見過ごせない疾病がないか調べる『経腟超音波(エコー)検査』も行う必要がある。ところがそういった知識を持っている方は驚くほど少なかった」

 それは企業側も同じだった。佐々木さんらが調べたところ「経膣超音波(エコー)検査」は企業の補助対象となっていないばかりか、オプションにさえ組み込まれていない例が多かった。また、60%以上の女性がこの検査の存在を知らず、「子宮内膜症」などの重篤さについて知らなかったという。

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経膣超音波(エコー)検査では、検査を受けながら画面にうつされた映像を自分で見ることができる ©文藝春秋/撮影・鈴木七絵

日本の性教育の「文化的な壁」

 欧米などでは、自分の娘が初潮を迎えたのを機に母が娘を伴い婦人科を訪ねるのが一般的という。そして、その婦人科の医師が娘の主治医のような立場になり、1対1の関係性の中で女性特有の疾患などの相談に乗る。また、お金のない若い世代のためにはほぼボランティアの「ユースクリニック」という制度が社会に浸透している。

 翻って日本では、学校教育の場ですら「性教育」が忌避され続けてきた現実がある。佐々木さんが痛感した「情報量の決定的な差」の背景には、そう簡単には埋まらぬ「文化的な壁」が存在していたのである。

 しかし、その現実があればこそ、佐々木さんは「女性に必要な検査が包括されたオールインワンのクリニック」の必要性をより一層感じたという。

©文藝春秋/撮影・鈴木七絵

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