「えりりん」といえば「山口恵梨子女流二段」――。日ごろの対局に加えて、聞き手やYouTube動画、女流ABEMAトーナメント、最近では読売新聞のコラム執筆など幅広い活躍をしており、将棋ファンにとってはおなじみの存在だ。
そんな彼女を語り部にしたエッセイコミック『山口恵梨子(えりりん)の女流棋士の日々』(竹書房)の続編、『攻める大和撫子編』がこのほど刊行された。なお、「攻める大和撫子」とは山口女流二段につけられたキャッチフレーズだ。
対局でも、普及の現場でも、そして私生活でも“攻める”えりりんを描いているのは、自身も熱心な観る将ファンの「さくらはな。」さん。作品への思いについて聞いてみた。
スマホゲームが「息抜き」に
――『攻める大和撫子編』のなかで、特にお気に入りのエピソードがあれば教えてください。
さくら たくさんあって選ぶのが難しいですね(笑)。
第1局「負け方を選ぶのは棋士自身」では、「投了図を負ける方が選べる」という発想にとても驚きました。有名な棋聖戦第1局(2020年)、渡辺明棋聖-藤井聡太七段の「王手を防ぐために打った桂馬で逆王手」という投了図について熱く語ってくれたのですが、投了までの過程をじっくり聞くことができました。普段プロが何を考えて将棋を指しているか、少しだけ知ることができたかなと。対局中の棋士の心理についてはずっと聞きたかったですし、自分でも読みたかったものが描けました。
あと、山口恵梨子先生はスマホゲームが「息抜き」になっていて、課金もしているそうなのですが、「(オートプレイのゲームに課金して)置いて眺めている」という話が面白かったです(笑)。山口先生の普段の姿がよくわかるエピソードなのでは、と思っています。
他にも世代が近い中村太地七段や永瀬拓矢王座、高見泰地七段との思い出、女流ABEMAトーナメントの舞台裏、文春将棋さんでコラムを連載されている上田初美女流四段との子ども時代のエピソードなどなど、本当にお気に入りのお話ばかりです。
「女流棋士の役割」について苦悩、どう感じた?
――山口恵梨子さんの話を聞いて、普段の「将棋を観る目」が変わったことはありますか。
さくら 山口先生とお仕事をする前は、将棋のプロの世界はとても遠くにあるイメージで、映画やドラマの登場人物が将棋を指しているのを観ているような気持ちでした。でも実際は、普通にご飯も食べるし、健康に気をつかったり、喜んだり悩んだり、人生の一部として将棋を指していることがよくわかりました。毎日をとても一生懸命生きている人たちが、真剣に将棋を指している姿を毎日観られるのは、とても贅沢なことだと思っています。
――今回の「攻める大和撫子編」では、将棋ブームで華々しく活躍する「えりりん」の姿からはうかがえない、「女流棋士の役割」について苦悩する様子が描かれています。さくらさんは、この間の山口さんの変化や葛藤をどのようにご覧になっていましたか。
さくら 山口先生は、将棋の普及活動にとても熱心に取り組まれている方なので、インタビュー中に「普及についてこう考えている」という話が以前は多かった気がします。もちろん今も普及活動の話はたくさんしてくださるのですが、第8局「年末の過ごし方と年始の誓い」の取材でお話をうかがった頃から、「将棋の勉強」についての話題が増えた気がします。
「対局を頑張ります」と迷っていた気持ちが決まって、すっきりとしたような印象を受けました。対局でもどんどん活躍していただき、その姿をこれからも描ければと思っています。それにしても、羽生先生からの年賀状、何て書かれていたんでしょうね(笑)。