紆余曲折を経て日本にたどり着いた長髪・ヒゲ面の苦労人助っ人
同僚からは「ウィルク」と呼ばれる。ゆるっとパーマのかかった長髪と、もっさりしたヒゲ面は野性味溢れるが、笑うと少しだけ垂れる青い目が実にチャーミング。球団から支給された黒のバックパックには複数の日本の「お守り」がくくりつけられている。見た目はクリスチャンでも、宗派にはこだわらないタイプのようだ。
「(日本語で)ワカリマセン。誰がくれたか分からないですけど、ロッカールームに置いてあって、運良くもらえたので使っていきたい」
タイガースの助っ人、アーロン・ウィルカーソンはそう言って頬を緩めた。手厳しい甲子園界隈の人たちから認められるには、5月だけで3勝をマークするなど、マウンドでのパフォーマンスは大前提。それに加えてたっぷりの愛嬌と、どこかミステリアスな雰囲気をまとう背番号52にファンのみならず、日々取材する筆者もすっかり魅了されっぱなしだ。純粋に応援したくなるその背中。
“俺たちはなぜウィルカーソンに勝って欲しいのか――”
日本にたどりついた道のりを振り返りながら、これまでの取材をもとにその魅力を考察してみたい。
ウィルクは苦労人だ。32歳で海を渡って日本にやってきた右腕。大学時代には右肘のトミー・ジョン手術を受け、野球人生の岐路に立たされている。
「自分の中では野球を続けるか考えた時期もあったけど、心の中では続けたい思いがあった。やらずに後悔するのだけはイヤだった」
食品会社の冷凍部門で夜間労働に従事したこともあり、若かりし頃は「フリーザー」と呼ばれていたという。「そのニックネームの時代は速くて若くて元気いっぱいだったんですけど、ちょっとスタイルは変わりましたね」。かつては豪腕でならしたが、大きな手術を経て、キャリアを積むごとに投げる球種や引き出しを増やし「技巧派」に変ぼうを遂げた。
それでも、プロ入り後もなかなかスポットライトは当たらなかった。13年に米国独立リーグでプロデビューし、14年にボストン・レッドソックスとマイナー契約。16年に、最も長く在籍することになるミルウォーキー・ブルワーズに移籍する。