長引くコロナ禍で、依然として厳しい状況が続く宿泊業界。全国の温泉地では、旅館の経営者であり、“顔”でもある女将たちが、その苦境と戦っている。

 一方、政府は近く、「GoToトラベル」に代わる観光支援事業である「県民割」の対象地域を全国に拡大する見込みだと報じられている。宿泊業界に新たな転機が訪れようとしている今、その最前線に立つ女将たちは一体何を思うのか――。

 長年温泉旅館を取材し、『女将は見た 温泉旅館の表と裏』(文春文庫)などの著書でも知られる山崎まゆみ氏が、福島県二本松市にある岳温泉「お宿 花かんざし」の女将・二瓶明子さんに話を聞いた。(全2回の1回目/後編に続く

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――今年の春の大型連休は規制がないなかで旅行や里帰りができるようになり、全国の旅館では5月3日、4日は満室のところが多く、概ねお客さんが入ったと聞きます。二瓶さんの宿「花かんざし」ではいかがでしたか?

二瓶 おかげ様で、連休中は満室となりました。人手不足で、スタッフの休みを確保するために最終日は休館しましたが、その後も5月は県民割の利用で多くのご予約を頂きまして、忙しくしています。

――お客さんが戻ってきたのですね。さて、この2年半近く、「宿泊業は大変」という報道が繰り返しされてきました。その現場では、具体的に何が起こっていたのでしょうか?

「お宿 花かんざし」の女将・二瓶明子さん

二瓶 やはり、お客様が激減しました。コロナ禍では「小さい宿の方が安心」と思われるお客様が多くて、これまで大型旅館に泊まっていたお客様が、うちのような小さな宿(全8室で食事も個室)を選んでくださる傾向にはあったのですが……。

 それでも、2020年4月に東京で緊急事態宣言が発出された後、4月から6月上旬まで、約2ヶ月ちょっとの間は休業しました。

――雇用調整助成金を活用されている旅館も多かったですが、やはり二瓶さんも?

二瓶 2020年は4月と5月、6月上旬まで使いました。ただ雇調金は、「まるまる1日休館にしなければならない」「ひとりも出社してはいけない」等、条件が厳しくて。お客様が1泊すれば2日間の営業になりますし、うちのような小さな宿には使いにくかったです。

「スタッフも守らないといけない」

――2020年6月に営業再開して、すぐにお客さんは来ましたか?

二瓶 小さい宿ということで、コロナ禍でも比較的お泊まりいただいていた方だと思いますが、それでも6月の稼働率は3割、7月は5割。土日も埋まらなかったですし、毎年8月は里帰りのシーズンで満室が続くんですが……酷かったです。

――一度休館すると、「従業員が仕事を忘れて、凡ミスが増える」「スタッフの士気をあげるのが大変」といったエピソードも聞きました。

二瓶 うちはスタッフへの配慮を考えることの方が大事でした。コロナへの恐怖心は、人それぞれだったので。例えば、2020年6月からお客さんを受け入れ始めて、7月に少し賑やかになった頃に、スタッフから「こんなに受けていいんですか」「軽減してほしい」という声が上がりました。中には、「一度休ませてください」と言って辞めたパートさんがいたり。

 休館した分、稼がなければいけないけれど、スタッフも守らないといけない。雇調金を使い、休むべきなのか……ずいぶん悩みました。

――難しい経営判断ですね。そのときは、どんな対応をされたんでしょうか。