長引くコロナ禍で、依然として厳しい状況が続く宿泊業界。全国の温泉地では、旅館の経営者であり、“顔”でもある女将たちが、その苦境と戦っている。

 一方、政府は近く、「GoToトラベル」に代わる観光支援事業である「県民割」の対象地域を全国に拡大する見込みだと報じられている。宿泊業界に新たな転機が訪れようとしている今、その最前線に立つ女将たちは一体何を思うのか――。

 長年温泉旅館を取材し、『女将は見た 温泉旅館の表と裏』(文春文庫)などの著書でも知られる山崎まゆみ氏が、福島県二本松市にある岳温泉「お宿 花かんざし」の女将・二瓶明子さんに話を聞いた。(全2回の2回目/前編から続く

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――コロナ禍の最中に、岳温泉は大きな地震に2度も襲われました。昨年2月と今年3月の福島県沖地震です。

二瓶 特に、今年の3月はオミクロンも落ち着き、県民割再開でどんどんお客様を取っていこうと思っていた矢先でしたので、「意地悪されているな」「神様……」って思ってしまいました。

――今年3月の地震では、どのくらいの被害があったんでしょうか?

二瓶 大きくは壊れなかったんですが、廊下やパブリックスペースの壁にヒビが入ったり、お風呂のタイルが剥がれて落ちてきたりしました。客室は2~3室使えなくなりました。

(写真提供=お宿 花かんざし)

 ガスやボイラー、水道は大丈夫だったのですが、大きな地震を何回も経験している身としては、半年後に見えてくる被害も多いので、油断ならないなと。「なんか、水道料金高いな」と思っていたら、実は水道管が外れていた……なんてことがあるんです。

修繕には数千万円かかる見込み

――損失額としてはどのくらいでしたか?

二瓶 簡単な修理のための休業は5日くらいだったので、200万のマイナスです。ただ、修繕にかかるのは何千万単位ですね……。

――そうした修理には、自治体からのサポートもありますか?

二瓶 補助金や行政の支援にも頼りたいのですが、その場合でも入金は先なので、まず一度はこちらで支払わないといけないんです。自己財源がないとやれないので、借り入れが必要で。

 でも、昨年の2月の地震の修理でも大きく借り入れをしたので、今年は営業を途絶えさせずに、お客様には「お見苦しいところがありますが、ご理解ください」と言って、自己財源で少しずつ修繕しながら営業しています。

――そうなんですね……。

二瓶 旅館の大変なところは、24時間、お客様の命を守らなければならないということです。そのための設備投資が、実は半端じゃないんです。ただ、これは「しなければいけない設備投資」であって、お客様へのサービス向上につながるような、前向きな投資ではない。

 コロナでも、感染症対策でパーティションが必要だったり、しなければいけない投資が多いんですが、それだけの費用を費やしてもサービス向上には直結しないことが、いつも悔しいなと思います。

――そうした逆境の中で、二瓶さん自身が変化したことはありますか?