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5年後、10年後の温泉地はどうなる?

二瓶 これは地域の課題になりますが、コロナで閉じてしまった旅館やお土産物屋さんも多いんです。そのため、地域の力が弱くなっている温泉地が増えていると思います。5年後、10年後、そうした地域がどうなっていくかと考えると……。

 うちの温泉地も家業としてやっている旅館が少なくなり、グループ企業の宿が入ってきています。お客さんが入るという点では賑わいを保っているんですが、そういう方たちはこの地域に骨をうずめるわけではないので、景気の状況に応じて、簡単に撤退してしまう可能性があります。そうすると地域のために動く人が少なくなり、次第に温泉地ごと消滅していくんだろうなと感じます。

――解決策など、お考えはありますか? 政治や行政が果たすべき役割も大きいかと思いますが。

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二瓶 子供たちにもっと地元を好きになってもらえるように、青少年たちの郷土愛を醸成できるような補助制度があったらいいですね。教育の部分です。若い時に、もうこの地域では暮らさないと判断されてしまうと、彼らは離れてしまって、帰ってこないんですよね。

 この地域にはこういう課題がある、といったことを、高校生とか若い世代に触れてもらうのも大切なのではないでしょうか。そうしたサポートをしていただけたら嬉しいですね。

二瓶明子さん

◆ ◆ ◆

 国立公園内にある岳温泉は、地域のシンボルである安達太良山の中腹の源泉から8キロ引き湯している。活火山の安達太良山から湧き出るお湯は、尖ったような肌触りの酸性泉。8キロ引き湯する間に湯もみされ、私たちが入る頃には優しい肌触りになっている。その大切な源泉は、湯守が365日、毎日休むことなく守っている。

 その岳温泉にある木造2階建ての和風旅館「お宿 花かんざし」は、建物自体は古いが、清潔感があり、小瓶に山野草が飾られるなど、どこか楚々とした宿。それは女将である二瓶さんの印象そのもので、「宿は人なり」である。ひとりで泊まるもよし、夫婦やカップルでもよし、静かにお湯と料理を楽しみたい人にぴったりの宿だ。

 以前、二瓶さんには『女将は見た 温泉旅館の表と裏』(文春文庫)のカバーを飾っていただいた。地に足がついた旅館経営を行い、華奢にも思えるその姿からは想像できないほど、一度覚悟を決めたら、その意思を貫き通す強さが備わっている。加えて地域の人にも慕われ、頼られている。

 今回のインタビューで、久しぶりにオンライン上でお目にかかったが、髪を切り、黒い作務衣を着てボーイッシュに。「難しい経営判断をズバズバしてきたので、いま勢いがあります」と語気を強めたその表情から、乗り越えてきた難問の大きさが窺いしれた。図らずも、こうした苦難が二瓶さんをより頼もしい社長へとステップアップさせるのだろうか――。

撮影=橋本篤/文藝春秋

女将は見た 温泉旅館の表と裏 (文春文庫)

まゆみ, 山崎

文藝春秋

2020年12月8日 発売