コロナ禍が始まってから3度目の夏を迎えようとしている日本。苦境が続く宿泊業の中で、全国の温泉旅館は感染対策を施しながら、新たな「おもてなし」を模索している。その最前線に立ち続けているのが、各地の“女将”たちだ。
長年温泉旅館を取材し、『女将は見た 温泉旅館の表と裏』(文春文庫)などの著書でも知られる山崎まゆみ氏が、そんな女将たちの“とっておきの仕事術”を紹介する(連載第3回目/#2から続く)。
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第三条 やる気スイッチは“仕事名”
2020年初頭に新型コロナウイルスが蔓延してから、多くの旅館は休館を余儀なくされた。「休館と営業を繰り返す中で、社員の士気を保つことが大変」とはよく聞いた悩みだが、新潟県越後湯沢温泉「和みのお宿 滝乃湯」女将の長松由紀子さんには独自の工夫がある。
由紀子女将が目指すのは「人の声が飛び交う、明るくて華がある旅館」。女将自身もよく笑い、越後湯沢のムードメーカーとして、「ゆっこ女将」と慕われている。だが以前は他の女将と同様に、コロナ禍でのスタッフの士気の低下に困っていた。
「あぁ、忙しい」と無意識に……
「連日で休みが続くと、身体から仕事が抜けてしまうんですね。例えば『お料理をつけ忘れた』とか『小鉢が余ってるからお客様に届けると、もうお食事が終わっている』といった、通常であれば当たり前の作業をミスするんです。
久々に込み合った土曜日は『あぁ、忙しい』と、無意識に口に出しており、仕事が億劫になる。休んでいた分、怠け癖がついたのでしょうね」
解決策として導入した手法とは――。
「星のシールを使った、社員個々の加点・減点表を掲示しました。例えば館内専用携帯以外の私用携帯は禁止。見かけたら減点5点。当番制で毎日SNSにトピックを2つ投稿するようにしていて、さぼれば減点ですが、自分の担当でない日に月3回以上投稿すると加点。そのように“良いこと・悪いことの見える化”から始めました」