運転資金は「借りられるだけ借りました」
二瓶 スタッフを守るために、3つのことをしました。まずは、高単価の部屋だけ予約を取り、低単価の部屋はストップをかけること。これで、スタッフの勤務時間は短くしながらも、会社として利益率を上げました。
次に、スタッフとお客さんの接触時間を減らすために、それまで懐石料理は1品ずつ出していましたが、2、3品をまとめて出すようにしました。本来なら2時間かけて12回に分けて出すのを、1時間で6回に減らして、スタッフに残業をさせないようにしたんです。
あとは、運転資金ですね。ちょうど融資が受けやすくなっていたので、支払いを滞らせないためにも、借りられるだけ借りました。
――たくさん工夫されてきたのですね。経営的に最も厳しかったのは、やはりコロナ禍になった直後のあたりですか?
二瓶 一番ひどかったのは、実は最近です。オミクロンが拡大し、まん防が出た今年の1月末から3月にかけてでした。営業しても、稼働は4割くらいで。
このときは、まん防が出たからというよりも、福島県内でも感染者数が増えていましたので、日々の感染者の推移を見ている方たちが「あの町でクラスターが出たから」と、キャンセルされることが多かったです。「あそこの町の居酒屋で何人クラスターだ」「あの保育園で何人出た」と、日々の情報に左右され、その影響を直接受けました。実際、「濃厚接触者になったのでキャンセル」というケースもありましたね。
GoToトラベルで疲弊した理由
――2020年7月に実施されたGoToトラベルキャンペーンはどのように作用しましたか? 旅館の経営者からは、「現場は大混乱」「客層が変わった」というリアルな声を聞きましたし、ごくごく少数ではありますが、「もうやらなくていい」と仰る方もいました。
二瓶 確かに客層は変わりましたね。それでもうちは、「じゃ、GoToは必要ない」とは思いません。有難い、本当に有難いのです。でも疲れる……。そうですね、本当に疲弊しました。
――それは、何に疲れたんでしょうか?
二瓶 うちは古い木造建物で、2階へは階段を利用していただきます。それはホームページで説明していますし、これまでは、そういったうちらしさを好んで来てくださるお客様がほとんどだったんです。でも、キャンペーン中は「階段を上らなきゃいけないの?」「え、こんな料金なのに木造なわけ?」と言われたことが度々ありました。
全体的に、うちに泊まりたくて来るのではなくて、お得率が良いから来ているというお客様が多かったように感じました。GoToのときは、1万2000円の宿に泊まると6000円の割引、2万円の宿に泊まると1万円の割引が適用されたので、「せっかくなら割引額が多い宿に泊まろう」という予約が多かったと思います。
――一方で、「GoToのおかげで、首の皮一枚つながった」という声もあります。
二瓶 本当にその通りです。GoToがないと収入も増えないので、有難いんです。だから愚痴ってはいけないんですね……。うん、有難いです。
――GoToキャンペーンが始まると、「一気にお客さんが来て、まるでジェットコースターに乗っているようだった。私も現場最前線で着物を着なくなった」と、ある女将から聞きました。