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「野田市小4虐待死事件」加害者の親は仲が良い夫婦

「常識」というのは、大学を出て、就職して、何歳までに結婚して、子どもをつくって、マイホームを建てるというような、一般的だと多くの人が考える「人生のレール」に乗ることだ。自分のタイミングを無視して、ふさわしい年齢でそれを叶えようとしたら、強引に事を進めることになるだろう。そのような背景があるとしたら、幸せそうな家庭に見えても、夫婦関係が破綻しているようなことが多いということだろうか。そう聞くと、阿部氏は意外なことを言った。

「もちろん仲が悪い家もありますけど、別に悪くないこともあります。たとえば、『野田市小4虐待死事件』の加害者である栗原勇一郎さんのご両親なんて全然仲悪くないし」

 2019年、千葉県野田市で、父である栗原勇一郎が、実の娘である心愛(みあ)ちゃん(当時小学4年生)に、冷水を浴びせるなど壮絶な虐待を繰り返したうえに殺害した事件だ。阿部氏は、加害者家族である勇一郎の両親を支援している。

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「勇一郎さんのご両親は、夫婦仲も悪くないし、虐待もしてないです。一般的には、虐待する人は、自分も過去にされていたとか言うじゃないですか。全然されていないんです」

 では、勇一郎自身は、どのような人物なのだろう。

「まあ普通と言えば、普通でしょうね。会社で真面目に仕事をしているし。異常な人だったとか、おかしかったとかは誰も言ってないから。まあ、一般的に見たらたぶん普通」

 とはいえ「普通」の大人が、自分の子どもを虐待死させるとは思えない。なぜ「普通」の大人である勇一郎が、想像を絶するむごたらしい虐待を行ってしまったのだろうか。

「うん、だからやっぱりね、巡り合わせですよ。勇一郎さんの場合、奥さんが精神障害者で暴れたりとかするんですよね。彼も庇護欲があって、強烈な共依存関係にある。かなりいろんな要素が積み重なって起きるんじゃないかと思うんですよね。それがなかなか表面的にはわからない。勇一郎さんは別に頭も悪くないし、言葉遣いもすごく丁寧だし、親もちゃんとしてるんですよ」

なぜ『サザエさん』のような家からも犯罪者は生まれるのか

 明らかに粗暴な面があったり、家がゴミ屋敷だったりすれば、周りも注意を払うだろう。しかし、そうではないからこそ「普通の家庭」なのだ。

写真はイメージです ©️iStock.com

「だからね、大体が本当に『サザエさん』みたいな、ああいう家なんですよ」

『サザエさん』の家こそ、誰もが思い描く「普通の家庭」の象徴だ。では、なぜ『サザエさん』のような家から、犯罪者が生まれるのか。

「今急激に、フェミニズムが少し前に出てきているけれども、本当にまだ地方では、25歳くらいで結婚、ギリで30歳みたいなところがあるからね。たぶん田舎のほうだと、出会いもないし仕事もないから、結婚しないではいられないんじゃないかな。いくら世の中の風潮が変わっても、そうしたライフスタイルが変わらないことには、変えられないんじゃないかと思うんですよね」

 結果的に、極めて一般的な家庭をつくるしかなくなってしまう。「常識にこだわりすぎる」という話と、つながってくる話だ。

「やっぱりいろんな人に出会わないと多様性って実感できないと思うんですよ。まず田舎では、女性が働いているモデルがないですよね。だから働いている女性を見て、勝手に不幸だと思っていたり、大変だと思っていたり、悪いイメージばかり持っている。認知が偏りますよね。都会で楽しく過ごしている良さってあるじゃないですか。別に満員電車だけが都会のライフスタイルではなくて、たくさんおもしろいことがあるんだってことがわかるのと、それを見たことがないのとでは全然違うと思うので。

 だからやっぱり私は、これからの若い人は、何年か都会に住んでみるとか、少し地元をはなれて日本を回ったりしたら良いんじゃないかなとはちょっと思いますね。あと『孤独』の問題ですよね。みんなそんなにうまくいってないと思うんだけど、それっていろんな人とかかわってないと、自分だけじゃないんだって思えないじゃないですか。でも認知自体がゆがんでいる人には、そういう声も届かないのかな?」

 さまざまなライフスタイルに触れて、多様性を実感すれば、「自分だけが普通になれない」ということで、思い詰めることもなくなるということだ。多くの人とかかわることで、自分の認知のゆがみにも気づくことができるかもしれない。

「だから私は、加害者家族が転居しなきゃいけなくなったときは、絶対に田舎は勧めない。できるだけ大きな都市に行ったほうが良いって言います。犯罪者の社会復帰も、まずは仕事が大事じゃないですか。やっぱり都市部のほうが社会資源も多いし。コミュニティが密すぎるところだと、私は危険を感じますね。言い切るのもどうかと思うけど、田舎に住むことに、あんまり良いことはないかなって思っちゃうかな」

「死刑になりたくて、他人を殺しました」 無差別殺傷犯の論理

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イースト・プレス

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