近年、「死刑になりたい」という動機で引き起こされた事件が連鎖反応的に発生している。2021年10月の「京王線刺傷事件」、同11月の九州新幹線車内で起きた放火未遂がその例だ。翌22年に東京・代々木で起きた焼き肉店立てこもり事件も、犯人が「死刑にしてくれ」と供述していた。
ここでは、各界の研究者や事件にかかわる人々へのインタビューによって、「死刑になるため」に凶悪犯罪を実行する犯人たちの“真の姿”に迫ったインベカヲリ★氏の著書『「死刑になりたくて、他人を殺しました」 無差別殺傷犯の論理』から一部を抜粋して紹介。元刑務官の坂本敏夫氏が明かした死刑囚の“素顔”とは——。(全2回の2回目/1回目から読む)
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刑務官にとって死刑囚は生徒のようなもの
刑務官は、全国に約1万7000人いるという。そのうち、死刑執行にかかわるのは、死刑場がある拘置所の職員だけだ。また、幹部クラスの職員は全国の刑務所や拘置所を転勤するが、一般の刑務官は、採用された場所で勤め上げる。そのため、刑務所の職員であれば、死刑執行にかかわることはない。そのため、死刑に対する意識がまったく違うと、坂本氏は言う。
「死刑場のある拘置所で採用された場合、30年、40年と勤める中で、東京拘置所でも2、3回は死刑執行に当たるでしょうね」
死刑場を併設した拘置所で採用される場合、2次試験後の面接で、必ず死刑執行の仕事があることを告知されるという。しかしそのときは、ほとんどの人が実感を持てず、「大丈夫だろう」と考えてしまうようだ。
「たぶん、わかっていないと思います。死刑がどんなものか。死刑囚と対峙すると、最初は怖いです。そりゃそうですよ、人を殺しているんですから。しかも『え、この顔で?』という人が。それと、裁判記録なんかも読みますから。本当に不気味です。でもかかわっていくと、そんな相手でも、段々可愛くなってくるんですよね」
刑務官は、死刑囚と言葉を交わし、衣体検査で体に触れ、長い時間を一緒に過ごす仕事だ。一般人が考える死刑囚と、拘置所に勤務する刑務官にとっての死刑囚は、感覚がまったく違うと坂本氏は言う。
「刑務官にとって死刑囚は、学校でいえば生徒と一緒です。自分の受け持ちの修業者になるわけですよね。彼らは刑務官に頼まないと何もできない。『手紙を出したいからお願いします』とかも含めてね。段々心の交流が深まっていって、他人事というのはなくなってくる。夜勤とかすると24時間一緒にいたりするわけですから。『坂本先生、頼みます!』とか言われると、段々可愛くなってくるの。そうすると、心穏やかに、ちゃんと成仏できるように、っていう指導をしたりするわけですね」