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「特別な感情が芽生えた相手を自分の手で殺すとき…」凶悪犯に“オヤジさん”と呼ばれた元刑務官が明かす、死刑囚の“最後の言葉”

『「死刑になりたくて、他人を殺しました」 無差別殺傷犯の論理』より #2

genre : ニュース, 社会

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死刑囚とオヤジさん

 刑務官の中でも、毎日死刑囚と顔を合わせるのは警備隊と呼ばれる組織だ。柔道と剣道の現役有段者を10人ほど集めた集団で、若い職員が主だという。この警備隊は、暴れている被収容者を取り押さえるほか、運動をさせたり、入浴をさせたりすることが仕事である。

「死刑囚はしゃべる相手がいないですから、その若い警備隊の隊員たちと毎日顔を合わせるうちに『オヤジさん』とか、呼んできたりするんですよ。そうすると、特別な感情が芽生える。その相手を自分の手で殺さなければいけない。執行命令を受けたとき、どれだけショックだと思います? ある意味、武道で培った精神力を持っていないとそういう仕事に耐えられない。だから、そこには優秀な職員を置くんです。一番つらい仕事だからね」

 死刑執行の際、居室から刑場に、執行時には手錠をかけて連行したり、目隠しをしたり、足をロープで縛ったりと、死刑囚の体に直接触れる仕事は、すべてこの警備隊が行うという。これは確かにつらいだろう。しかし執行される側にとっては、そのほうが救いになるのかもしれない。

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「だから、毎日顔を合わせているオヤジさんに、最後は『お世話になりました』って言うんですよ。普段は、すごく温かい感情が流れていますからね」

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 絞首刑では、首が切れないよう太いロープが用意され、前日に死刑囚の身長に合わせて長さを調整し、滑車に通しぶら下げておく。死刑囚にそのロープが見えないようカーテンを引く。執行前、希望があれば、最後の教誨を受けさせる。その後、目隠しや手錠を施してからカーテンを開き、死刑台の上に連れて行く。足を縛り、ロープを首にかけ、職員たちがサッと退いた瞬間、別の部屋にいる職員3名が一斉に執行ボタンを押す。検事や拘置所長は、立会室からガラス越しにその様子を見ているという。

「踏板は音もなくスッと開きますが、死刑囚の体が5メートルほど落ちた瞬間轟音が響き、ロープがきしむ音がしばらく続きます」

 死刑執行にかかわる職員は、勤務命令なので断れないのだという。