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「特別な感情が芽生えた相手を自分の手で殺すとき…」凶悪犯に“オヤジさん”と呼ばれた元刑務官が明かす、死刑囚の“最後の言葉”

『「死刑になりたくて、他人を殺しました」 無差別殺傷犯の論理』より #2

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夢破れる刑務官

 坂本氏の家系は、父も祖父も刑務官だ。祖父は、大正時代に刑務官を務めていた。父は終戦後に熊本刑務所からキャリアをスタートさせ、坂本氏はその官舎で生まれたという。親子3代を合計すると、80年間勤め上げたことになる。日本の刑務所の歴史にほとんど携わっているということだ。

 しかし驚いたことに、父も祖父も、自分の仕事について坂本氏に語ったことはないという。国家公務員法第100条で、「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする」と決まっているからだ。つまり、親子3代で一切情報を共有していないのである。

「刑務官って、仕事の話をしたらいけないんです。『あぁ、塀の中はこうだったのか』って、自分が刑務官になって初めてわかる。それまでは、一切知らない。でも、変わらないです。刑務所の中の文化って、今でも50年前と一緒ですから。1日の行動スケジュールもそうですね。変わったのは部屋が個室になったとか、空調設備がついたとか、そんなものですよ」

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 仕事内容を外部に漏らしてはいけないということは、つまり働く側も、仕事内容を知らずに就職するということだろうか。

「そういう人が多いですね。だから、すぐ辞める人も多いですよ。女子刑務所なんかは、すごく新陳代謝が激しい。刑務所があるところって田舎だから、車がないと生活ができない。それから出会いがない。常態的な超過勤務で、休みもない。女子刑務所も今は高齢の受刑者が増えて、まるで老人ホームのよう。下の世話までしなきゃいけない状態になっているんです。矯正職員というくらいだから、教育的な仕事かと思ったらそうでもない。で、夢破れるわけ」

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 刑務官は矯正職員だ。受刑者に、反省の動機付けをさせるのが本来の仕事だと坂本氏は言う。

「刑務官は、そこでかろうじてプライドを保つんですよね。そういうものがないと、単なる牢番場になってしまいます。日本の刑務官は処遇と警備の、2つの役割を持っています。刑務官の役割は保安警備というアメリカなどと違うところです」

 教員免許を取得した人が試験を受けに来ることもあるという。囚人たちを立ち直らせることに、憧れを抱いて入ってくるのだろう。しかし、実際の仕事は矯正とはほど遠い。入った途端に、上司から「受刑者と私語を交わすな」と言われる。私語を交わさなければ、コミュニケーションが取れないため、矯正などできるはずがない。

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