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2022/06/29

仰木監督とイチローが去った後に失われたもの

 前身の阪急ブレーブスならいくらでも説明できる。西武ライオンズと並ぶパ・リーグを代表する古豪であり故・西本幸雄監督就任以降の1960年代~70年代に大黄金時代を築き上げた。そんな阪急の「お家芸」は優れたスカウト網を駆使して獲得した逸材を鍛え上げる「投打共に圧倒的な選手育成力」。それに尽きる。

 野手では長池徳二、加藤英司、福本豊、中沢伸二、大熊忠義、松永浩美、石嶺和彦、福良淳一、藤井康雄など。投手では山田久志、米田哲也、梶本隆夫、足立光宏、山口高志、佐藤義則、星野伸之、今井雄太郎、山沖之彦など。不人気球団ゆえに自前の選手を徹底的に鍛え上げる他にチーム強化の方法がなかったとも言えるがその育成力は今のホークスやライオンズと何ら遜色なかった。

 さらに外国人選手獲得でも抜群の眼力を持ち、ロベルト・バルボン、ダリル・スペンサー、ボビー・マルカーノ、ブーマー・ウェルズなど歴史に残る優良助っ人を数多く獲得している。

 そして投打共に優れてはいたが60年代以降の阪急は一貫して「強打のチーム」だった。その伝統は1988年秋のオリックスによる買収以降も受け継がれ、89年には門田博光を迎え入れ年間チーム本塁打数170本&90年には186本という「ブルーサンダー打線」を形成した。

 そんな「お家芸」がおかしくなっていったのは仰木彬監督とイチローがオリックス黄金時代を築き、そしてチームを去っていった2001年あたりからだ。仰木監督はまごう事なき名将ではあるがその資質はチームの現有戦力を結集して優勝に突き進むことに特化しており、西本幸雄監督や野村克也監督のような育成&勝利両立型のリーダーとは言えなかった。また本拠地を広大なグリーンスタジアム神戸に移したことと不世出の天才イチローの出現が逆にオリックスの「呪縛」になったのか、2000年以降のオリックスは細身で俊足巧打のイチロー型選手(そんな何人もイチローが出るわけないのに)中心のドラフトを繰り返すようになり、全国区の本格派スラッガーをドラフト上位でほとんど指名しなくなる。(2005年高校生ドラフト1位でT-岡田を指名したのが唯一か)

 こうして徐々に失われていく「スラッガー育成のお家芸」は、2004年冬にパ・リーグ有数の強打の歴史を「お家芸」とする近鉄バファローズとの合併を経てもなぜか改善することはなくむしろ悪化の一途を辿り、この頃のオリックスの「お家芸」といえば哀しいかな「貧打」「歴史的大量失点」「監督途中解任」と言った悲惨な単語が並ぶことになった。

2010年前後から取り戻しつつある「好投手育成」という「お家芸」

 そんなオリックスにようやく光明が見え始めたのは2010年前後からだ。最初に復活した「お家芸」は「投手育成力」だった。金子千尋、西勇輝、平野佳寿、岸田護、佐藤達也などが抜擢され主力に育つとチームの自信となり好循環が発生していく。山岡泰輔、山本由伸、田嶋大樹、山崎福也、宮城大弥、本田仁海などが次々と躍動し今や12球団トップクラスの投手王国を形成するまでに復活した。なので「ここ10年のオリックスのお家芸は?」と聞かれればそれは「投手育成力」であろう。ただ現在のプロ野球は「強打絶対主義」の時代であり昭和的な「小技と守りの野球」では絶対に「強打の野球」には勝てない。2010年からの10年間、オリックスはこの投打のギャップに苦しみ続けた。

 そこに名将・中嶋聡が登場する。彼はオリックスが取り戻すべきもう一つの「お家芸」に初めから気づいていた。そう「強打者育成」だ。中嶋聡は吉田正尚、T-岡田を除くオリックス野手全員の中から「強くバットを振ることが出来る選手」を全員抜擢した。杉本裕太郎、宗佑磨、紅林弘太郎、太田椋、佐野皓大、来田涼斗らである。上手くいった選手も伸び悩んでいる選手もいる。

杉本裕太郎

 ただ一つ確実なことは一度失われた「お家芸」を完全復活させるには信じられない忍耐力と努力、そして時間がかかるということだ。何せ「人間を育てる」のだ。

 全国各地のスラッガーの候補生の中から「本物の才能」を探し出すスカウト網の眼力を養い、獲得した逸材をプロの強打者に鍛え上げられる王貞治、土井正博、藤井康雄、真中満のような名指導者を配置し、そして一軍で勇気を持って起用し続ける胆力と度量を持った名監督を据える。

 残念ながら今のオリックスにできているのは「名監督がいる」ところだけだ。まず一軍二軍全部見渡してもスラッガー候補生がほぼ見当たらない(笑)。紅林弘太郎、太田椋、来田涼斗、元謙太はいるが、彼らは強いスイングの選手ではあるが根本的には中距離打者であり、村上宗隆や山川穂高とは違う。(もちろん坂本勇人や山田哲人のようになって欲しいと願ってやまないが)

 この極度のスラッガー人材不足こそが一度「お家芸」を失ったチームの深い傷跡に他ならない。毎日日替わりで若手を抜擢し続けほとんど誰も期待に応えてくれない中で中嶋監督が七転八倒しながら「強打の逸材」を渇望する気持ちがこの2年間毎日痛いほど伝わってくる。この絶望的状況を劇的に改善するには普通のことをやってたってどうにもならない。やるならプロ野球界の度肝を抜くようなことをしなけりゃ意味がない。頼みの綱はあの人だ。

拝啓 

 

 福良GMさま、さあ今こそ出番ですよ。今年秋のドラフトから一度で5人、今後3年間で15人のスラッガーを獲得しましょうよ。え? 投打の戦力バランスが崩れるですって? すでにめっちゃ崩れてますよ!(笑)

 

 え? クジ運悪すぎて山田哲人も石川昂弥も佐藤輝明も取れなかったトラウマが怖い? いつまで負けたままでいるつもりですか! 真正面からガンガン指名していきましょうよ。そして入団してきた若手には徹底した肉体改造と素振りで強力なスイングを身につけさせてください。

 

「オリックス打線を完全になめてる敵投手がみんな投げてくる初球ど真ん中の150キロ速球を打ち損じることなく確実に1球で仕留められる強くて速くて正確なスインング」が必要です。今のオリックス打線は中日ドラゴンズと並んで12球団で一番スイングが弱いチームです。球団全体の意識を大きく変えましょう。そうすれば3年に一人はスラッガーが出てくるチームになります。絶対に。せっかく昨年優勝したんです。もう一段高い夢をチームもファンも一緒に見ましょうよ。年間200発打てる「いてまえブルーサンダー打線」の夢を。

 

 もし福良GMが強打者育成主義に大きく舵を切ってくれるなら、僕たちファンも10年間待ちますよ。2000年代に崩壊した投手陣だってあの2003年「29失点の屈辱」から20年かかったけど投手王国を復活させたじゃないですか。あとは打線です。僕たちバファローズファンは福良GM・中嶋監督と共に阪急近鉄以来の「強打者育成のお家芸」復活の夢を見たいのです。これからの10年がどうかそのための旅路となりますよう祈っております。

 

敬具

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