5月27日、将棋界の歴史がまた一つ動いた。里見香奈女流四冠が棋王戦コナミグループ杯、対古森悠太五段戦で勝利を収め、女流棋士として史上初めて8大タイトル戦での本戦入りを果たした。また、この勝利で直近の公式戦成績を10勝4敗とし、棋士編入試験の受験資格を得た。

 この日、関西将棋会館の報道控室には30名ほどの取材陣が集まっていた。日本将棋連盟のモバイル中継に加えて、ABEMAでの動画中継も配信されている。夕方を迎え、局面は里見の優勢から徐々に勝勢へ近づいていた。しかし控室に沸き立つような空気はない。来るべき時を静かに待つという雰囲気である。

 日本将棋連盟の職員から、終局後に対局室のふすまをすべて取り外すので、それが済んでから入室してくださいという通達があった。間もなく古森が投了し、報道陣が動き始めた。

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棋王戦コナミグループ杯予選決勝での里見香奈女流四冠(左)と古森悠太五段(右)

女性として史上初の「奨励会初段」に

 ここで、里見がいわゆる「プロ棋士」を目指してきた過程について振り返ってみたい。2011年5月、女流名人・女流王将・倉敷藤花の女流三冠を保持していた里見は、奨励会編入試験を受験する。試験対局では初戦で加藤桃子2級(段位は当時、以下同)に敗れたが、残る2局で伊藤沙恵2級と西山朋佳4級に連勝し、奨励会1級への編入が認められた。

 そして翌年の1月に初段へ昇段。現行制度において、女性が奨励会初段へ昇段を果たしたのは里見が史上初である(のちに加藤桃子、西山朋佳、中七海の3名も達成)。

 その後、13年7月に二段、同年12月に三段へ昇段。14年4月から始まる第55回三段リーグに参加することが決まった。女性の三段リーグ参加も初めてのことだ。

この日、多くの報道陣が詰めかけた

 だが14年2月に、体調不良による休場届を提出。このことから、三段リーグへの参加は15年10月開始の第58回に持ち越された。

 第58回開始時の里見は23歳。26歳までの年齢制限を考えると猶予はほとんどない。しかも三段リーグには「若いほうが強い」という空気がある。もちろん、初参加の里見には負い目はなかっただろう。しかし、年齢制限のプレッシャーを振り払うことは容易ではなかったはずだ。2015年10月の時点で、三段リーグを通過したプロ棋士は120名ほどいるが、そのうち「三段リーグ初参加の時点で23歳以上」という棋士は10名いるかどうかである。「大器晩成」の可能性が一顧だにされないのが奨励会三段リーグという戦場なのだ。

 結果として、里見は年齢制限の壁を超えることができなかった。18年3月の第62回三段リーグ終了時点で、里見は奨励会退会を余儀なくされた。