「受験資格を得たことにはそれほど驚きませんが、倒した相手を見ると驚きます。特に池永君との将棋では仕掛けから圧倒していました。以前と比べてパワーアップしているのは感じますね。これまでの里見さんの売りは終盤力の強さでしたが、最近は序盤研究の深さを感じます。自分だけの得意な形を磨き上げて序盤からリードし、そこに持ち前の終盤力が加わっている。
里見さんの得意戦法である振り飛車、特に相振り飛車は力戦になることが多いので研究にも限界があるのではないかと思いますが、研究から外れても自前のセンスを生かして、うまくやっていますよね」
また村山七段は最近、里見から「対局過多で勉強する時間がないのですが、何を優先すべきでしょうか」と質問を受けたことが印象に残るという。序盤の勉強をする時間がないという感覚では、と村山七段は推測する。
「体力は必要ですが、実戦の場での学びが多いのは嬉しい」
確かに最近の里見は忙しい。男性棋士との戦いは上記の通り棋王戦のみだが、そこに女流棋戦が加わるのだ。特にこの4~6月は、西山朋佳女流二冠とマイナビ女子オープン及び女流王位戦でダブルヘッダーを戦っている。対古森戦の前々日(5月25日)も西山との女流王位戦第3局、さらにその2日前(23日)も、清麗戦の挑戦者決定戦を将棋会館で指している。こちらの相手も西山だ。5月だけで里見は公式戦と女流棋戦を合わせて10局(うち5局が西山戦)を戦い、9勝1敗と圧巻の成績だ。
筆者は福岡で行われた女流王位戦第3局を間近で観戦する機会があったが、充実を感じた。里見の対西山戦において、1、2を争う快勝譜だったのではないかと思う。早い時間の終局だったこともあり、里見は翌々日の対局に備えてか、その日のうちに福岡から帰阪した。
後日、5月のハードスケジュールについて聞くと、「健康面を第一に考えるようになりました。また、4時間の対局が多かったため、体力は必要ですが、実戦の場での学びが多いのは嬉しく思います」という返事をもらった。
棋王戦の感想戦が終わると、記者会見が行われた。そこでは棋士編入試験に関する質問が多かったが、里見は受験するかしないかについては明らかにしなかった。
「あまり前向きには考えていません。受けることは覚悟もいるし、大きな決断にもなります。ただ現実に資格を得たことで考え直したいと思っています」
女性のプロ棋士は今まで一人もいない
ここで改めて、なぜ里見の棋士編入試験が注目されるかを考えてみよう。最大の理由は「女性のプロ棋士が今まで一人もいないから」だ。里見の肩書は「女流棋士」であって、女性の「プロ棋士」ではない。
女性のプロ棋士と女流棋士は似ているようで、制度としてはまったく別の存在だ。いわゆるプロ棋士は奨励会を突破して四段昇段を果たせば、誰でもなることができる。そこに性別の差はない。ただし、これまで女性で奨励会を突破した者は一人もいなかった。里見と西山は奨励会三段まで昇ったが、四段昇段はならなかった。現在は中七海三段が女性の奨励会三段として、プロ入りを目指している。