里見の実力が他の三段と比較して明らかに下回っていたわけではない。参加した5期いずれのリーグでも勝ち越すことはできなかったが、最後となった62回リーグではその期の昇段者である長谷部浩平に土をつけているし、また当時の最年少三段である古賀悠聖にも勝っている。
結局のところ、三段同士の実力は紙一重なのだ。リーグで大幅な負け越しを喫した直後にいきなり爆発して昇段することもあるし、またコンスタントに勝っていてもどうしてもあと一歩が及ばずに涙を呑んだ若者もいる。
編入試験受験のチャンスは3年前の2019年にもあった
奨励会を退会した里見には、まだプロ棋士になる可能性は残されていた。女流棋士として好成績を上げ、男性相手の公式戦に参加する。そこで既定の成績(良い所取り10勝以上、かつ勝率6割5分以上)を挙げれば、棋士編入試験を受けることができる。
だが、退会直後の里見はその可能性についてまったく言及しなかった。奨励会員となり、男性プロとの公式戦の場からは7年以上離れていた。そのような状況で、男性プロ相手に好成績を挙げることに言及するのは、立場的にも難しかっただろう。
とはいえ里見の可能性については、本格的に女流棋士へ復帰してから、すぐにでも取り沙汰されていた。実際、里見の編入試験受験のチャンスは3年前の2019年にもあった。当時はあと1勝まで迫りながら、そこで連敗し、受験資格を得ることはかなわなかった。
ここで改めて、里見の直近の公式戦成績10勝4敗について見てみよう。
21年7月23日 王位戦 対黒田尭之五段戦 ○
21年9月1日 王位戦 対村田顕弘六段戦 ●
21年9月30日 王座戦 対山本真也六段戦 ○
21年10月16日 王座戦 対高田明浩四段戦 ○
21年11月26日 銀河戦 対本田奎五段戦 ○
21年11月26日 銀河戦 対西川和宏六段戦 ○
21年12月16日 王座戦 対星野良生五段戦 ●
21年12月21日 銀河戦 対佐々木大地五段戦 ●
21年12月24日 竜王戦 対狩山幹生四段戦 ●
22年1月11日 棋王戦 対浦野真彦八段戦 ○
22年2月21日 棋王戦 対澤田真吾七段戦 ○
22年4月1日 棋王戦 対池永天志五段戦 ○
22年5月6日 棋王戦 対冨田誠也四段戦 ○
22年5月27日 棋王戦 対古森悠太五段戦 ○
(段位はいずれも当時)
昨年末の3連敗で編入試験の可能性も低くなったと思われたが、年明けから始まった棋王戦で勝ち進んでの資格獲得だ。棋王戦では順位戦B級1組昇級を果たした澤田や、王位戦挑戦者決定戦を戦った池永を破った星が光る。
3年ほど前から里見を含めた数名で研究会を行っている村山慈明七段に話を聞いた。