探偵小説専門誌「幻影城」は1975年から79年まで四年半しか続かなかった雑誌だが、SFでは『グイン・サーガ』の栗本薫、『銀河英雄伝説』の田中芳樹を、ミステリではトリッキーな作風で知られた泡坂妻夫、連城三紀彦を世に出している。

 泡坂・連城の両氏の、読者を騙すためなら既存の小説観に捉われず何をしてもいいという姿勢、それを実現するための優れた技巧の数々は、後の新本格推理の作家たちにも大きな影響を与えた。

 77年に刊行された泡坂妻夫の第二長篇『乱れからくり』は、翌年の第31回日本推理作家協会賞を受賞している。当時、新人の作品が同賞を受賞するのは極めて異例だった。

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 ボクサーになる夢をあきらめた青年・勝敏夫は、求人広告を頼りに宇内経済研究会の門を叩く。そこは元警官の女傑・宇内舞子がひとりで開いた経済事件専門の調査会社だった。

 玩具業界の老舗・ひまわり工芸を経営する馬割一族の調査に着手した敏夫は、社長の馬割鉄馬の息子・宗児と甥・朋浩、いとこ同士に当たる二人の確執を知る。

 だが、朋浩と妻の真棹を尾行していた敏夫の眼前で二人を乗せたハイヤーが衝撃音とともに炎上。それは隕石の直撃を受けたためであった!

 それ以降、からくり尽くしで「ねじ屋敷」と呼ばれる馬割家で、一族の者が次々と殺されていく。その巧妙きわまる殺人計画と意外な真犯人の正体とは――?

 いま読むと、導入部分こそリアルな私立探偵もののように書かれているが、隕石事故の後はトリック趣味が横溢した非日常のミステリ世界に突入していく。探偵小説の面白さをたっぷりと堪能できる名作中の名作である。(日)

乱れからくり (創元推理文庫)

泡坂 妻夫 (著)

東京創元社
1993年9月 発売

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